映画、書評、ジャズなど

澁澤龍彦「高丘親王航海記」

高丘親王航海記 (文春文庫 し 21-7) 作者:澁澤 龍彥 文藝春秋 Amazon 著者の晩年に書かれた遺作です。享年は59歳です。 本書の内容は、主人公高丘親王が天竺を目指して旅に出る話です。高丘親王は、義母の薬子から幼少期に性の手ほどきを受け、そのことが…

東野圭吾「祈りの幕が下りる時」

祈りの幕が下りる時 (講談社文庫 ひ 17-33) 作者:東野 圭吾 講談社 Amazon 巧妙なプロットが光る作品で、最後までぐいぐいと引き込まれます。 明治座の演出家を訪ねた幼馴染の女性が殺害される。殺害現場の近くの河川敷では、ホームレスが焼死する。この2つ…

楊双子「台湾漫遊鉄道のふたり」

台湾漫遊鉄道のふたり 作者:楊双子 中央公論新社 Amazon 戦前の日本統治下における台湾で、日本人の女性作家千鶴子が台湾に滞在中、二十歳の通訳の千鶴との淡い交流を描いた作品です。 台湾の食がテーマになっており、とにかく作品中に台湾の食べ物がふんだ…

劉慈欣「三体」

三体 (ハヤカワ文庫SF) 作者:劉 慈欣 早川書房 Amazon 最近文庫化やドラマ化で話題の中国の作家による長編SFです。古典力学における三体問題をモチーフにした作品です。 物語は中国の文化大革命に始まります。父親が紅衛兵に殺害された葉文潔は山奥の基地で…

馳星周「少年と犬」

少年と犬 (文春文庫) 作者:馳 星周 文藝春秋 Amazon 震災で飼い主を亡くした犬が、日本全国を旅しながら、様々な人間と出会い、触れ合うという話です。犬が喋るシーンはないものの、犬の気持ちが手に取るように伝わり、著者の圧倒的な筆力を感じさせてくれま…

安野貴博「サーキット・スイッチャー」

サーキット・スイッチャー (ハヤカワ文庫JA) 作者:安野 貴博 早川書房 Amazon 解説者が、日本のエンターテイメント小説界における「令和のデビュー作五傑」に入ることは間違いないと断言されていますが、とてもスリリングでよく練られた作品です。 自動運転…

道尾秀介「カエルの親指」

「カラスの親指」シリーズ 合本版 (講談社文庫) 作者:道尾秀介 講談社 Amazon ヒューマンタッチのミステリー作品です。 詐欺に巻き込まれて、詐欺師たちに追われる身となった武沢と、テツという二人の中年男性がタッグを組むことになる。その生活にマヒロが…

エドワード・アンダースン「夜の人々」

夜の人々 (新潮文庫 ア 28-1) 作者:エドワード・アンダースン 新潮社 Amazon かつてレイモンド・チャンドラーが、いままでに書かれた最高な犯罪小説の一つと称賛したとされる作品、と言われれば、手に取らざるを得ません。その前振りに違わず、深い余韻を残…

松浦寿輝「名誉と恍惚」

名誉と恍惚(上) (岩波現代文庫 文芸357) 作者:松浦 寿輝 岩波書店 Amazon 名誉と恍惚(下) (岩波現代文庫 文芸358) 作者:松浦 寿輝 岩波書店 Amazon 以前読んだ『香港陥落』につながる大作です。 舞台は戦前の上海。日本人の警察官芹沢が、陸軍将校の嘉山…

レイモンド・チャンドラー「ロング・グッバイ」

ロング・グッドバイ フィリップ・マーロウ〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 作者:レイモンド チャンドラー 早川書房 Amazon 久々に読み直してみましたが、さすがによく練れているミステリーです。そして、何と言っても村上春樹氏の翻訳が読みやすく、グ…

佐藤究「幽玄F」

幽玄F 作者:佐藤究 河出書房新社 Amazon 著者の前作『テスカトリポカ』が素晴らしい作品だったので、この新作を手に取ってみました。 著者の謝辞によると、三島由紀夫の超音速戦闘機の搭乗体験記に強い影響を受けているようです。 主人公の透は戦闘機のパイ…

小川哲「地図と拳」

地図と拳 (集英社文芸単行本) 作者:小川哲 集英社 Amazon 少し前に読了した作品でしたが、余韻の深い読後感故に、なかなか書評が書けずにきてしまいました。 満州という広大な土地の一角の架空の都市を舞台に、様々な立場の人々が関わり合い、新しい都市を建…

阿刀田高「ナポレオン狂」

ナポレオン狂 (講談社文庫) 作者:阿刀田高 講談社 Amazon 最近は歩いたり走ったりしながらaudibleで小説を聴くことが多くなったのですが、audibleは短編小説と相性が良いように思います。 そんなわけで、阿刀田高さんの作品とはaudibleで初めて接することに…

有栖川有栖「46番目の密室」

新装版 46番目の密室 (講談社文庫) 作者:有栖川有栖 講談社 Amazon 主人公のミステリー小説家アリスと臨床犯罪学者の火村が登場するシリーズの第一作で、本格的なミステリーです。推理小説家の大家の家のパーティーに集まった関係者たち。その中にはアリス…

東野圭吾「クスノキの番人」

クスノキの番人 (実業之日本社文庫) 作者:東野 圭吾 実業之日本社 Amazon 会社を不当に解雇され、その腹いせに犯罪をしてしまった主人公玲人が、親族からクスノキの番人を指示される話です。クスノキには、多くの人たちが祈念にやってくるが、それがどういう…

真山仁「コラプティオ」

コラプティオ 作者:真山 仁 文藝春秋 Amazon 国民に人気のある宮藤総理と、それを支える秘書官の白石、そして宮藤を巡る特ダネ記事を狙う新聞記者の神林を中心とした政治ドラマです。 大震災後に一旦は後退した原発政策だったが、宮藤はその立て直しを画策す…

濱嘉之「天空の魔手」

警視庁公安部・片野坂彰 天空の魔手 警視庁公安部・片野坂彰シリーズ (文春文庫) 作者:濱 嘉之 文藝春秋 Amazon 警視庁公安部片野坂彰シリーズの最新刊です。 中台関係の緊張が高まる中、片野坂のチームはドローンを用いた「対日有害活動の排除」を計画。片…

浅田次郎「シェエラザード」

シェエラザード(上) (講談社文庫) 作者:浅田次郎 講談社 Amazon シェエラザード(下) (講談社文庫) 作者:浅田次郎 講談社 Amazon 戦時中に多くの民間人を乗せたまま沈没した弥勒丸を引き上げるプロジェクトを巡る物語です。 大手金融機関を辞めた軽部と元…

東野圭吾「白夜行」

白夜行 (集英社文庫) 作者:東野圭吾 集英社 Amazon これまで東野圭吾さんの作品で読んだことがあるのは、『容疑者Xの献身』のみでしたが、この『白夜行』も大変素晴らしい作品でした。 大阪の廃墟ビルで質屋の社長が死体となって見つかる。容疑者として疑わ…

松浦寿輝「香港陥落」

香港陥落 作者:松浦寿輝 講談社 Amazon 香港のペニンシュラホテルを舞台に、日英中の3か国の男が語り合う小説です。 登場人物は、日本人で元外交官の谷尾、ロイター通信に勤務しているという英国人のリーランド、そして商売人の中国人の黄。3人は、日本軍が…

真山仁「ハゲタカ」

新装版 ハゲタカ 上下合本版 (講談社文庫) 作者:真山仁 講談社 Amazon 前から読みたいと思っていた作品ですが、やっと手にしました。 一言で言えば、素晴らしいとしか言いようがありません。その時代の肌感覚がよく描かれていますし、豊富な金融の知識が埋め…

米澤穂信「Iの悲劇」

Iの悲劇 (文春文庫) 作者:米澤 穂信 文藝春秋 Amazon 住民がいなくなった地方の集落に移住者を募る市役所職員の話です。いくつかのエピソードから成っており、最後に裏が明かされるという構成です。 主人公の万願寺は、市の甦り課で、移住者のケアやトラブ…

小川哲「嘘と正典」

嘘と正典 (ハヤカワ文庫JA) 作者:小川 哲 早川書房 Amazon 小川哲氏といえば、最近「地図と拳」で直木賞を受賞されたことで話題ですが、この作品は短編集です。 「魔術師」は、伝説的はマジシャンとその娘の話。マジシャンの父はタイムマシンというマジック…

カルロス・ルイ・サフォン「天使のゲーム」

天使のゲーム 上 (集英社文庫) 作者:カルロス・ルイス・サフォン 集英社 Amazon 天使のゲーム 下 (集英社文庫) 作者:カルロス・ルイス・サフォン 集英社 Amazon ルイ・サフォンの『風の影』の続編です。前作と同様、バルセロナを舞台にした小説で、「本」を…

バリー・ランセット「トーキョー・キル」

トーキョー・キル 私立探偵ジム・ブローディ (ホーム社) 作者:バリー・ランセット 集英社 Amazon 私立探偵ジム・ブローディを主人公とするシリーズの2作目です。 東京を中心に横浜中華街、フロリダ、さらにはバルバドスへと舞台が展開していく壮大なミステリ…

黒木亮「カラ売り屋vs仮想通貨」

カラ売り屋vs仮想通貨 (角川書店単行本) 作者:黒木 亮 KADOKAWA Amazon どこかの企業の株価を下げることで儲けを得ることを生業とするカラ売り屋の攻防を描いた3つの短編集です。 「仮想通貨の闇」は、仮想通貨業者とカラ売り屋との攻防を描いた作品です。…

米澤穂信「満願」

満願(新潮文庫) 作者:米澤穂信 新潮社 Amazon 2014年に刊行された短編ミステリー集で、ミステリー賞3冠に輝いた力作です。 「夜警」は、交番に配属された新人警官の話。犯人に発砲したものの自らも刺されて殉職する。正義感に駆られての行動にも見られた…

荒木あかね「此の世の果ての殺人」

此の世の果ての殺人 作者:荒木あかね 講談社 Amazon 今年の江戸川乱歩賞に審査員全員一致で選ばれたミステリー作品です。 著者は23歳での受賞ということで、本作品がデビュー作です。 小惑星が熊本県に間もなく衝突して地球が滅亡することが明らかな世の中を…

月村了衛「土漠の花」

土漠の花 (幻冬舎文庫) 作者:月村 了衛 幻冬舎 Amazon ソマリアに派遣された自衛隊を取り上げた作品です。 PKO活動で派遣されたにもかかわらず、現地の部族間闘争に巻き込まれてしまい、自衛隊史上初めて、武力行使による死者を出したという設定です。 ソ…

カルロス・ルイス・サフォン「風の影」

風の影 (上)(下)巻セット (集英社文庫) 集英社 Amazon バルセロナを舞台にしたとても味わい深い作品です。 バルセロナの古書店主の息子ダニエル少年は、父親に連れられ、「忘れられた本の墓場」に行く。そこで偶然手にしたのが、フリアン・カラックスという…