映画、書評、ジャズなど

米澤穂信「満願」

2014年に刊行された短編ミステリー集で、ミステリー賞3冠に輝いた力作です。

 

「夜警」は、交番に配属された新人警官の話。犯人に発砲したものの自らも刺されて殉職する。正義感に駆られての行動にも見られたが、そうでなかったことがわかる。。。

 

「死人宿」は、失踪した女が仲居をする温泉宿を訪ねる話。その宿では有毒ガスで年に数人の死者が出る。その宿で遺書が見つかる。主人公は女から遺書を書いた人間を探してほしいと頼まれる。。。

 

「柘榴」は、二人の娘を持つ母親の離婚の話。家にあまり帰ってこない父親との離婚で、親権は当然もらえると思ったが、蓋を開けば父親に行ってしまう。そこには娘たちの意向が働いていた。自分の身体を傷つけてまで父親に親権を行くようにした娘たちの心理とは。。。

 

「万灯」は、バングラデシュに派遣された商社マンが、プロジェクトを遂行するために、反対する現地のリーダーを殺害する話。完全犯罪のはずだったが、目論見が崩れていく。

 

「関守」は、事故が頻発する伊豆の峠の道路をライターが取材する話。ライターは都市伝説を執筆すべく、峠の茶屋を営む女に話を聞くが、その背後には恐しい話があった。。。

 

「満願」は、かつてお世話になった下宿の大家さんの妻が殺人を犯し、主人公はその弁護人を務めるという内容です。裁判では、ぐうたらな主人のしりぬぐいのために妻がした借金の返済を巡って殺人が行われたという検察の主張に対し、主人公の弁護士は、この妻が突発的に殺人を行ったと立証しようと試みたが、妻はなぜか控訴を取り下げてあっさりと刑に服した。掛け軸に飛び散った血の状況が謎を解明する鍵となった。。。

いずれの短編もパンチが効いた優れた作品です。特に脱帽だったのは、「万灯」と「関守」です。とてもリアリティがあり、ジワジワと恐怖感を植え付けられる感じです。圧倒的な筆力です。

 

これだけの短編ミステリーを書ける作家はなかなかいないと思います。

 

とても充実した読後感を味わうことができました。