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カルロス・ルイス・サフォン「風の影」

バルセロナを舞台にしたとても味わい深い作品です。

バルセロナ古書店主の息子ダニエル少年は、父親に連れられ、「忘れられた本の墓場」に行く。そこで偶然手にしたのが、フリアン・カラックスという謎の作家によって書かれた「風の影」という本だった。ダニエルは、父親から、その本のことは誰にも言うなと厳命された。

その本との出会いによって、ダニエルの運命は大きく変わる。ダニエルはフリアンの謎めいた生涯に惹かれ、フリアンに関わる人々に接触していく。フリアンは、貧しい帽子屋に生まれたが、ある大富豪に目を付けられて、富裕な学生の通う学校に入学する。やがて、フリアンは友人の妹に恋をするが、その後パリに行った後の足取りは途絶えた。フリアンが恋した相手の女性も行方がわからなくなる。

ダニエルは、フリアンの本を持っていることで、何者かに命を狙われるようになる。やがて、ダニエルはフリアンとの数々の共通点に気づいていく。

そして、フリアンをよく知る女性が殺害された。その女性がダニエルに残した手紙から、フリアンを巡る真実が明らかになっていく。。。

 

 

この小説の舞台は、第二次大戦に向かっていくスペインのバルセロナです。いうまでもなく、どんよりした空気が支配していた時代ですが、この小説で描かれたバルセロナも、とても陰鬱で薄暗い情景が中心です。後にウディ・アレンが『それでも恋するバルセロナ』で描いたバルセロナとはあまりにも大きな違いです。

しかし、そんな中でも、バルセロナの奥深さがきちんと描かれているところに、この小説の魅力があると言えるでしょう。

ダニエルを親身になって助けるフェルミンの魅力的なキャラクターの描かれ方も秀逸です。ダニエルが接する女性たちもとても魅惑的に描かれています。

 

この本の作者であるカルロス・ルイス・サフォンは1964年生まれです。この本が書かれたのが2001年ですから、30代後半で世に出された作品ということになります。こんな奥の深い作品をその歳で書けたことに驚きを禁じえません。訳者解説によれば、この本は37か国で翻訳出版されており、ドイツでは当時の外相ジョシカ・フィッシャーが本書を絶賛したとのこと。すごい小説家としか言いようがありません。

 

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