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小川哲「嘘と正典」

 

小川哲氏といえば、最近「地図と拳」で直木賞を受賞されたことで話題ですが、この作品は短編集です。

 

「魔術師」は、伝説的はマジシャンとその娘の話。マジシャンの父はタイムマシンというマジックで過去に飛んだまま行方不明に。娘は父の幻影を追い続け、そのマジックを何十年も考え続け、いざ同じマジックを実行する。。。

「ひとすじの光」は、亡くなった父親が残した馬の話。その馬のルーツを辿っていくことが、自分のルーツの解明にもつながっていく。。。

「時の扉」は、過去を変えられる時間の扉にまつわる寓話を王に語る話。

「ムジカ・ムンダーナ」は、父親の残したカセットに収められていた音楽を巡る物語。使われている楽器を辿っていくと、人々が音楽を所有し、それを演奏することで貨幣として使用されるというフィリピンの島の民族に辿り着いた。。。

「最後の不良」は、流行がなくなった世界の話。流行を追いかけるカルチャー誌に勤めていた主人公も会社を辞め、ヤンキーたちも解散する。。。

「嘘と正典」は、時空を超えて通信ができる技術が開発され、未来から歴史が書き換えられる話。改変される前のオリジナルの歴史が正典とされる。エンゲルスの裁判を改変して共産主義の誕生を消滅される試みは失敗する。。。

 

いずれの短編も、読者が狐に摘まれた気分になるような、掴みどころのない作品です。あまり深く理解しようとしても、徒労に終わりますが、作品を包む空気感がとてもシュールで心地いいところが、著者の筆力を表しているように思います。

作品中に出てくる様々なエピソードも、知性を感じさせるものばかりです。

 

『地図と拳』も読んでみたくなりました。