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カルロス・ルイ・サフォン「天使のゲーム」

 

ルイ・サフォンの『風の影』の続編です。前作と同様、バルセロナを舞台にした小説で、「本」をモチーフにした作品です。

 

作家のダビッド・マルティンは、新聞社から小説執筆の機会を与えられて、頭角を現していく。そんな中、恋心を抱いていたクリスティーナは、大富豪の息子であるビダルと結婚してしまう。ビダルも小説を書いていたが、その作品のモチーフを与えていたのがダビッドだったので、ダビッドは傷ついた。

そんな中、ダビッドはある人物から大金を支払われて執筆を依頼され、ディエゴ・マルラスカという人物が住んでいた塔の館があてがわれた。そして、ダビッドがかつて契約していた出版社が火事で焼ける事件が発生。ダビッドは犯人と疑われ警察に追われるようになる。

ダビッドのもとにはイサベッラという若い女性がアシスタントとしていつくようになるが、ダビッドはクリスティーナのことを忘れられない。しかし、クリスティーナは田舎で療養していることをダビッドは知り、クリスティーナを訪ねてみると、廃人のようになっていた。

ダビッドはイサベッラを忘れられた本の墓場に連れていく。イサベッラは本屋の息子と結婚して子供を産むが、命を落とす。。。

 

小説全体を包む耽美で重厚な空気感がとても心地よい作品です。こういう心地よい空気を小説で描ける作家はなかなかいないように思います。

前作とは直接的に連結している内容というわけではありませんが、底流ではしっかりとつながっていることが読者にははっきりとわかるところが秀逸です。

この小説では、イサベッラの魅力的なキャラクターが光っています。ダビッドの才能にほれ込み、ダビッドがクリスティーナのことを忘れられないことを知りながら、そして時にはダビッドに冷たい扱いをされながらも、ダビッドに献身的に寄り添い、ダビッドに促されるがままに本屋の息子と結びついて結婚し、子どもを産むものの、若くして亡くなっていく。その切ない生き方が読者の胸に刺さります。

こうした才能豊かな作家が若くして亡くなられたことは、本当に惜しいという気持ちにかられます。