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加藤シゲアキ「なれのはて」

直木賞候補になった作品です。惜しくも受賞は逃してしまいましたが、巧みなプロット、繊細な表現で読者を虜にさせる著者の筆力に圧倒されます。

話はテレビ局のイベント企画部門の女性職員が持っていた一枚の絵で展覧会を開催しようという提案から広がっていきます。その絵を描いたのは無名の画家ですが、展覧会を開催するためには著作権の許諾が必要になる。そのため、無名の画家のルーツを辿っていくと、秋田の石油会社を経営する一族に行き当たります。そして、その一族の複雑な歴史が徐々に明らかになっていきます。

著者は物語の細部にわたってよく研究されている印象です。著作権の制度、秋田の石油開発の歴史や空襲の被害、そして自閉症についてもよく勉強された上で書かれていますし、そうした細部が全体のストーリー展開にきちんと生かされています。

本当に素晴らしい作品でしたし、アイドルグループの一員でありながら、こうした作品を生み出す著者の才能に敬意を表します。