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黒木亮「カラ売り屋vs仮想通貨」

どこかの企業の株価を下げることで儲けを得ることを生業とするカラ売り屋の攻防を描いた3つの短編集です。

 

「仮想通貨の闇」は、仮想通貨業者とカラ売り屋との攻防を描いた作品です。デタラメな計画で仮想通貨の価値を引き上げている業者。そのきな臭さに目をつけた投機家はカラ売りを仕掛ける。業者は多額の広告を打ち仮想通貨の価格を引き上げるが、投機家は対抗して闇を暴くレポートを公表して激しいバトルを繰り広げる。やがて、仮想通貨のバブルは弾ける。。。

 

「巨大航空会社」は、簿外債務が重くのしかかる航空会社に目をつけた投機家がカラ売りをしかける話。航空会社は、退職金や年金の支給を切り詰めたり、不採算路線の廃止に取り組むが、法的整理に追い込まれ、多くの出資者や債権者は損失を被るが、その裏でカラ売りの投機家だけは利益を得た。。。

 

「電気自動車の風雲児」は、電気自動車や自動運転に取り組むベンチャーとカラ売りファンドの攻防の話。既存の自動車メーカーもカラ売りに絡んで買収を試みるが失敗に終わる。。。

 

いずれの話も実体経済の中で働く人々がいる裏で、実態のない金融手法を駆使して、莫大な金を稼ぐ人々がいるという世の中の矛盾を描いており、大変共感できます。

 

それにしても、著者の経済に対する造詣の深さには感心してしまいます。相当な調査の上に小説が出来上がっているので、リアリティがあります。

 

とてもスリリングな経済ミステリーでした。