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中山七里「護られなかった者たちへ」

生活保護を巡るトラブルに起因する殺人事件を扱った作品です。

 

福祉保険事務所の関係者2人が次々と餓死という残虐な手法により殺害される。いずれも恨みを買うような人物ではなかった。2人は生活保護を巡るあるトラブルに関係していた。それは高齢女性がぎりぎりの状態で生活保護を申請したにもかかわらず、申請を却下されたことで、その女性が餓死したという事件だった。これに抗議して福祉保険事務所に押し掛けた男は投獄されたが、やがて出所してきた。2人の殺害はこの男の仕業かと思われた。そして、このトラブルに関与した第三の男が次のターゲットと見られた。警察はこの出所してきた男の身柄を追う。。。

 

途中で種明かしされたのかと思いきや、驚くようなどんでん返しがあり、読者をあっと言わせるには十分なプロットです。

 

生活保護を取り上げる視点も大変秀逸です。限られた予算の中で誠実に対応しているはずの福祉保険事務所の仕事ぶりというのは、実は多くの生活困窮者の生活を破滅に追いやっているという二面性があるわけです。だから、一見すると誰からも恨まれるようなことはしていないはずの人が、他の面ではとてつもない恨みを買っていることがあり得るわけです。これは、生活保護という制度に内在する構造的問題であり、福祉保険事務所の担当者の問題にとどまるものではありません。本作品は、こうした構造的問題を巧みに浮き彫りにしています。

 

中山七里さんの作品は初めて読んでみたのですが、取り上げる題材といい、読者を驚かせる巧みな構成は、とても素晴らしいと思います。

 

著者の別の作品も読んでみたくなりました。