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マイケル・ルイス「ライアーズ・ポーカー」

 

 マイケル・ルイスのデビュー作で、原著は1989年に公刊されたものです。

金融ノンフィクションで数々の力作を世に送り出している著者ですが、もともとはソロモン・ブラザーズのセールスマンを務めていました。入社後、瞬く間に頭角を現したものの、3年で退社し、ノンフィクション作家として活躍します。

本書は、ソロモン・ブラザーズ時代の経験から、投資銀行の在り方がいかに歪んだものであるかについて、皮肉たっぷりに書かれています。

 

本書では、まず新入社員たちが受ける研修について書かれています。多くの新入社員たちは、花形である債券トレーダーを目指します。そのためには、研修期間中に、担当の取締役に目を付けられることが必要となります。さもなければ、希望しない株式部門に配属されてしまうことになります。著者も当初株式部門の幹部に目を付けられてしまい、そこから逃れるために一苦労したとのこと。

 

そして、ソロモンは、モーゲージ・ローンを大きな事業に拡大した投資銀行でもあります。住宅ローンは当初、投資銀行からは相手にされなかったのですが、やがてソロモンの稼ぎ頭へと成長していきます。その担当に抜擢されたルーウィー・ラニエーリは、その中心的な役割を果たし、一大派閥を形成することになります。

このモーゲージ・ローンは、やがてサブプライム・ローンとして、リーマンショックを引き起こす立役者となったことは言うまでもありません。

 

 さて、著者は、ロンドンのセールスマンとして配属されることになりますが、そこで経験したソロモンの社風は、客の利益よりも会社の利益を優先する態度です。著者は、まだ“下等動物”扱いだった時期に、ソロモンが抱えているお荷物の債券を顧客を欺いて売りつけたことで周囲から称賛され、違和感を感じます。

「客というものが、実に忘れっぽい生き物だ」

というソロモン幹部の言葉が、そうした社風を象徴しています。

 

このように、本書は、著者の経験を通じて、投資銀行のインセンティブがいかに歪んだものであるかを描いています。特に投資銀行のトレーダーは破格の報酬を得ているわけですが、果たして高額な報酬に見合うことを彼らはやっているのだろうか、というのが著者の問題意識の根底にあります。

以下の文章に、著者の問題意識が凝縮されています。

「非常識きわまりないマネー・ゲームの中心地にいて、自分の社会的な値打ちとかけ離れた待遇を受け(自分にはそれだけの値打ちがあるのだと、いくら思い込もうとしても無理だった)、まわりを見ると、同じくらい半端な何百人という連中が、札束を数えるひまもなくポケットにしまい込んでいる。そんな状況にほうり込まれて、信念を保っていられるだろうか?まあ、人によりけるだろう。」

 

こうした著者の問題提起にもかかわらず、こうした傾向は益々助長されていき、やがてリーマンショックを迎えることになります。

そして、リーマンショックから世界が立ち直った今、再びこうした傾向が助長されているようにも見受けられます。

 

本書が書かれたのは20年以上前ではありますが、今こそ読まれるべき本のように思います。