1911年に書かれたミステリー作品です。
著者の作品は初めて手にしましたが、単なるミステリーではなく、淡いラブストーリーも包含する豊かな文学作品で、清々しい読後感が得られました。
エジプト学者のジョン・ベリンガムが忽然と姿を消す。ジョンは失踪する直前、いとこのハーストの家に立ち寄った形跡があり、その後、弟のゴドフリー・ベリンガムの家の庭には、ジョンがいつも身につけていたスカラベが落ちていた。
ジョンはしかも奇妙な遺言を残していた。父親から受け継いだ財産を弟のゴドフリーに譲るという内容だったのだが、自分の遺体が特定の場所に埋葬されなければ、財産はいとこのハーストに行ってしまうという内容だったのだ。
この難題に立ち向かうのが、法医学者のソーンダイクだ。彼の教え子で医師のバークリーがゴドフリーの医師だった縁で関わることになったのだ。
その後、切断された人骨が次々と見つかる。それはジョンの骨だと思われた。ジョンはオシリスの眼を形どった指輪を薬指に着けていたのだが、その部分だけが見つからなかったのだ。やがて、その薬指は井戸の中から見つかり、遺体はいよいよジョンのものだと思われた。
ハーストの弁護士のジェリコは、遺言を盾に、ジョンの検死を求めるが、裁判所はジョンの死亡を認めず。
ソーンダイクは、ジョンの遺体はミイラとすり替えられて大英博物館に運ばれたことを突き止める。見つかった多くの骨は、実はミイラの骨だったのだ。それを実行したのは、ハーストの弁護士のジェリコだった。。。
以上があらすじですが、本作品には、謎を解き明かす過程と並行して、語り手の医師バークリーと、ゴドフリーの娘のルーストの間の淡い恋愛が同時進行で進んで行くところに魅力があります。
ゴドフリーとルースが犯人と疑われ出すと、2人の関係にヒビが入り始めるのですが、ソーンダイクが謎を解明し、2人は更に深い仲へと発展していくことになります。
訳者解説によれば、初期の翻訳では、この2人の恋愛話が至る所でバッサリと省かれてしまっていたそうですが、この恋愛エピソードなくして、本作品の魅力は語れないように思います。
古代エジプトの歴史と絡めながら、実に上質のミステリーとして描かれており、かのレイモンド・チャンドラーが絶賛したというのも頷けます。