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黒木亮「巨大投資銀行」

 

巨大投資銀行(上) (角川文庫)

巨大投資銀行(上) (角川文庫)

 
巨大投資銀行(下) (角川文庫)

巨大投資銀行(下) (角川文庫)

 

バブルからその崩壊辺りの時代の外資系金融機関の様子を描いた作品です。

 

都銀に就職したものの、嫌気がさして外資系に転職した桂木は、大型のM&Aを手掛けるなどして実績を上げ、再び邦銀幹部として戻るものの、都銀の統合の波の中で、今度は金融担当大臣の要請で再建中の都銀のトップを任されることになります。

 

他方、山一證券を退社した竜神は、外資系で裁定取引(アービトラジー)で大儲けする仕組みを開発し、幹部まで上り詰めます。市場の未成熟な部分を突いて、ノーリスクで莫大な利益を上げる仕組みです。

 

物語は主にこの2人の立身出世を中心に描かれています。2人は最先端の金融知識を駆使しし、多額の報酬を手にします。その代わり、いつクビになるか分からないというプレッシャーの中で、厳しい競争を日々繰り広げています。

そんな2人の姿は、一見すると、華々しい成功者なのですが、どこか虚しさを身にまとっているような印象も受けます。2人は確かに多額の稼ぎを生み出してはいるのですが、果たして何を生み出しているのか考えたとき、その答えは難しいように思われます。こうした華々しさの陰の虚しさこそがバブル前後の金融業界を包み込んでいた雰囲気のように思いますし、本書ではその雰囲気が巧みに描かれているような気がします。

 

本書はもちろんフィクションではありますが、要所要所で実話と分かるエピソードが浮かび上がってきます。一部の登場人物についても、実在の人物と重なるキャラクターがいたりするようです。そうしたフィクションとリアリティの絶妙なオーバーラップこそが本書の面白さだと思います。

 

それにしても、このような壮大でありながら細部も緻密な金融小説というのは、よほどの知識がなければ書けるものではありません。細部こそ完璧に理解することは至難の業ですが、読み終えた後、心地よい疲れを味わうことができる、そんな小説でした。