映画、書評、ジャズなど

マイケル・ルイス「マネー・ボール」

 

著者は『世紀の空売り(The Big Short)』や『ブーメラン』『ライアーズ・ポーカー』『フラッシュ・ボーイズ』などの金融関係のノンフィクションで有名ですが、著者の代表作といえば本書かもしれません。

 

本書では、貧乏球団であるアスレチックスのゼネラルマネジャーであったビリー・ビーンのお金をかけずにチームを強くした特異な戦略について書かれています。ビリーの戦略は徹底的にデータにこだわることです。これまであまり注目されなかった四球に着目し、スカウトやトレードに臨むといった姿勢で、資金力のないアスレチックスを常勝チームに導きます。

 

ビリーは、かつて自信も注目された野球選手でしたが、恵まれない野球人生を送ります。そんな中、ビリーは自ら志願してアスレチックスのアドバンス・スカウトに転身し、見事その才能を発揮することになります。

通常であれば、監督が仕切るところを、ビリーはゼネラルマネジャーでありながら、自らチームの戦術に口を挟みます。その補佐役を務めるのは、ハーバード大卒業のポール・デポデスタという若者で、いつもノートパソコンを持ってビリーをサポートします。

 フロントが現場に介入するようなビリーのスタイルには賛否両論あるかもしれませんが、とかく情緒に流されがちなスポーツの世界に科学的な論拠を持ち込んで、結果につなげているところはやはり斬新です。

 

考えてみれば、世の中で、しがらみや情緒に流されていて、科学的分析手法を駆使すれば、飛躍的な成果をあげられるような分野というのは、結構あるのではないかという気はします。特にスポーツの世界ではそうした傾向が強いように思います。

 

ただ、そうしたデータ分析に基づくやり方が本当に人々をハッピーにするかどうかは、よく考えなければならないように思います。スポーツの世界では、ある程度情緒的な部分があるからこそ、人々の心に訴えるような気もします。勝つためにデータ分析に依存して、四球に頼るつまらないゲームを観客に見せる結果となってしまっては、本末転倒です。

 

そういった点も含め、本書は科学的分析手法の意義を考えさせてくれる刺激的な内容でした。