村上春樹訳を読みました。
チャンドラーらしいハードボイルドさを持ち合わせた作品です。
探偵マーロウに、裕福な未亡人のミセス・マードックからの依頼が舞い込む。ミセス・マードックの息子レスリーの嫁リンダが失踪し、しかもミセス・マードックが保有する貴重なコインのブラッシャー・ダブルーンがなくなっていた。
マーロウが、リンダがかつてナイトクラブで働いていたときの友人の女のもとを訪れる。彼女はナイトクラブのオーナーと結婚していたが、ヴァニアーという愛人がいた。
その後、2つの殺人事件が起こる。マーロウに接触してきた私立探偵と、ブラッシャー・ダブルーンの売買を持ちかけられたコイン商が殺害されたのだ。いずれの現場にもマーロウは居合わせてしまう。さらに、ヴァニアーも殺害される。
ブラッシャー・ダブルーンを盗んだのは、ヴァニアーと組んだ依頼人の息子レスリーだった。ヴァニアーが2人を殺害した後、ヴァニアーはレスリーに殺されたのだった。しかも、ヴァニアーは、依頼人の秘書の女マールの弱みを握っており、ミセス・マードックから長年にわたり金をせしめていた。
マーロウは、マールに深い同情を寄せる。。。
ラストでは依頼人の秘書のマールが急に話の中心に躍り出てくるところにやや違和感を感じます。この点も含め、物語全体にわたり、展開のスムーズさに欠けている感があることは正直否めません。村上春樹氏が解説の中で、
「自然なドライブ感が不足している」
と評しているのもうなづけます。
他方で、村上春樹氏も
「脇役の人物描写は相変わらず本当にうまい」
と述べているように、この物語に登場する脇役は魅力的です。
思うに、チャンドラーの小説は、物語全体の構成や細部のロジックではなく、物語全体に漂う雰囲気なのではないかと思います。そういう意味では、本作品もチャンドラーらしさが十分に堪能できる作品となっているのではないかと思います。