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江戸川乱歩「江戸川乱歩名作選」

 

江戸川乱歩名作選 (新潮文庫)

江戸川乱歩名作選 (新潮文庫)

 

江戸川乱歩といえば、小学生の頃、怪人二十面相シリーズを夢中になって読みましたが、それ以外の作品にはあまり触れてきませんでした。大人になってこうして江戸川乱歩の作品に触れてみると、ぞっとする感覚がじわじわと湧き上がってくる感じがします。

 

「石榴(ざくろ)」は、警察官の主人公が山奥の温泉旅館で知り合った探偵小説好きの猪股という青年を話し相手として、自らの捜査経験談をする話。その話は「硫酸殺人事件」ともいうべき話で、空き家から顔が硫酸で石榴のようになった遺体が発見された。身元の捜査は難航したが、主人公も知り合いだったお菓子屋の谷村という主人が、商売敵である琴野という主人を殺害したのではないかとの疑いが浮上する。しかし、主人公は、それは琴野が自分が殺害されたように偽装して、実は亡くなったのは谷村ではないかと推理したのだった。

そうした主人公の推理に対し、猪股は谷村こそが犯人だと反論する。実は、猪股こそが谷村本人だったのだ。谷村は勝ち誇った様子で、そのまま谷底に向かって飛び降りたのだった。。。

 

押絵と旅する男」は、列車の中で遭遇した不思議な押絵を手にした老人の話。その押絵には、白髪の老人とそれに寄り添う美少女が描かれていた。老人によれば、押絵で描かれているのは兄で、かつて凌雲閣から遠眼鏡で眺めていて見つけた美少女と一緒になるために、遠眼鏡を逆さに覗かせ、そのままいなくなってしまったのだという。それ以来、老人は、その押絵を手にしてあちこち旅しているのだった。。。

 

「目羅博士」は、動物園で出会ったルンペン風の青年が語った話。あるビルの部屋の住人が決まってビルの谷間で首をくくる。その理由を探ると、目羅博士が隣のビルでマネキンを使って、対岸の住人が鏡に映ったように見せかけながら、最終的に首をくくらせるように持って行っていたのだった。。。

 

「人でなしの恋」は、若くして美男子の夫の家に嫁いだ女の話。夫は毎晩離れに閉じこもっていたのだが、女性と話すような声が聞こえてくる。その正体は人形だった。女は嫉妬からその人形をバラバラにしたところ、夫は自害していた。。。

 

「白昼夢」は、道で演説をしている男の話。男は妻を愛するばかりに、妻を殺害し、バラバラにして屍蝋にして、店先に飾っていた。。。

 

「踊る一寸法師」は、テント小屋の中で虐待されている不具者の話。彼は虐待された後、美人の女を手品と称して滅多刺しにして首を切り落としてしまう。そして、テントに火を放ち、生首を持って近くの丘の上で踊っていた。。。

 

「陰獣」は、探偵小説家の主人公と人妻の小山田静子の話。主人公は静子から、かつての恋人の男で今は探偵小説家をしている大江春泥から脅迫を受けていると相談を受ける。脅迫状によれば、春泥は夜な夜な天井裏から夫妻の行動を観察して楽しんでいるらしい。そしてついに、人妻の主人の変死体が発見される。主人公は当初、殺された主人こそが春泥として自分の妻を脅迫していたと推理する。しかし、その後推理を変える。静子が春泥であり、春泥の妻でもあり、一人三役を演じていたのだった。。。

 

 

どれも、じわじわとぞっとする感情が高ぶってくるようなタッチの作品ばかりですが、やはり圧巻は「陰獣」でしょう。他の短編に比べるとやや長いのですが、読み進めるうちに引き込まれていき、そしてラストの意外性たっぷりの結末につながっていきます。