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マイケル・バー=ゾウハ―「エニグマ奇襲指令」

 

エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)

エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)

 

 著者はブルガリア生まれ、その後イスラエルに移住し、新聞社の特派員を経て、イスラエル国防省の報道官を務め、従軍したり、国会議員になったりと、多彩な経歴の方です。

 

第二次大戦中のイギリス。ドイツのロケット開発が進んでいる中、ドイツの情報を入手するため、ドイツの暗号装置“エニグマ”を奪取する計画が練られた。MI6長官ボドリーがその実行役として白羽の矢を立てたのは、大泥棒のベルヴォアールだった。ベルヴォアールはかつてパリのゲシュタポの倉庫から金塊を盗み出した実績があった。

ベルヴォアールがフランスに渡ると、その情報は敵方に筒抜けだった。誰かがベルヴォアールのフランスへの渡航を敵に密告していたのだった。ベルヴォアールはかつての盟友を辿り、エニグマの奪取に向けた計画を続行する。ゲシュタポに追われる美女ミッシェルを引き込み、ドイツの国防軍高官のもとへ送り込み、エニグマの移送計画を仕入れる。しかし、それはドイツ側が仕掛けた罠だった。

その情報をもとに、フランスのレジスタンスのメンバーはエニグマ奪取計画を遂行するが、ドイツ側の反撃にあい、多くの犠牲者を出す。その中にはベルヴォアールは含まれていなかった。

ベルヴォアールは、ひそかに別のエニグマをターゲットにした奪取計画を遂行していた。偽物のエニグマを作り、それを本物とすり替え、それをドイツ軍の物資に紛れ込ませてドイツに送り込んでいた。しかし、ベルヴォアールがドイツでエニグマを受け取ろうとしたときに、ドイツの国防省高官の手で破壊されてしまう。

ベルヴォアールはロンドンに戻り、計画が失敗したことをボドリーに告げるが、ボドリーから驚くべき顛末を聞かされる。イギリスはエニグマを既に入手していたのだった。そのことがばれるのを隠すために、あえてエニグマの奪取計画をベルヴォアールに遂行させていたのだった。。。

 

ラストのどんでん返しは衝撃的でした。エニグマを入手している事実を隠すために、英国政府は、多くの犠牲を払ってまでも、エニグマ奪取計画をぶち上げたというわけです。国家が多くの人々の犠牲よりも、戦争に勝利することを選ぶ、というのは、戦時下の国家の判断としては、いかにもリアリティを持つストーリーです。

 

本書はとてもテンポよくスリルを楽しめる作品で、著者の他の作品も読んでみたくなりました。