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綾辻行人「十角館の殺人」

 

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

 

 

本書は著者が26歳の時のデビュー作ということですが、日本のミステリー作品の傑作のひとつといえるかもしれません。

本書の初刊は1987年なので20年以上前の作品です。確かに携帯電話が普及した今日から見れば考えにくいシチュエーションであるわけですが、今読んでも抜群のリアリティがあることも事実です。あっという間に読み通してしまうテンポの良さも素晴らしいです。

 

本書は、大学のミステリー研究会に属する7人の男女が、孤島に滞在する物語です。

その島には、ある風変わりな建築家が建てた十角形の館があったが、その建築家は、その島にある別の館が炎上する中で焼死するという事件があったばかりだった。7人の男女は、そんな不吉な館に泊まりに行ったのだった。連絡手段もない孤島で、次々と殺人が勃発する。メンバーたちは互いに疑心暗鬼に陥るとともに、死んだはずの建築家が実は生きているのではないかとの考えも抱く。

実は、そのミステリー研究会では、飲酒によって女子学生が亡くなっていた。建築家はその女子学生の父親だった。次々と起こる殺人は、その建築家が恨みを果たしているということなのか。

ラストで、実はメンバーの1人が亡くなった女子学生に恋をしており、女子学生が亡くなった恨みを果たしていたことが明らかになる。。。

 

ネタバレになりますが、このミステリー作品の巧みなところは、2人の登場人物が実は同一人物だったことが明らかになるところにあります。島に渡らなかったはずのメンバーが、実際は島に渡っているメンバーの1人でもあったことに、読者はまんまと騙された格好です。

物語の途中で、殺人犯について様々な憶測が繰り広げられます。実は建築家の弟が犯人ではないか、行方不明になっている庭師が犯人なのか、あるいは死んだはずの建築家の遺体は実は庭師のものであり、建築家は生きているのではないか、等々。

いずれももっともらしいのですが、実はどれも真実ではなく、あっと驚く結末が待っているという展開には脱帽です。

ラストの告白がやや唐突感があることはさておき、それにしてもこれだけの作品を弱冠26歳で書いたというのは奇跡的といえるでしょう。

必読のミステリー作品です。