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「サンザシの樹の下で」★★★★

 

サンザシの樹の下で [DVD]

サンザシの樹の下で [DVD]

 

チャン・イーモウ監督の2010年の作品です。文化大革命の最中、農村に送り込まれた女子学生と地質調査員の青年との淡いラブ・ストーリーです。

 

ジンチュウは、文化大革命の風が吹き荒れる中、都会から農村へと実習に送り込まれる。その村の丘の上には、サンザシの樹があった。その樹の下では、かつて日本軍によって多くの兵士たちが殺害されたため、その花の色は血の色に染まって赤くなったと言われている。

その村には、地質調査員のスンという青年がいた。スンとジンチュウはプラトニックでありつつも親しい関係になっていく。スンは良い家柄だったのに対し、ジンチュウの両親は反革命のレッテルを貼られていた。

ジンチュウはやがて学校を卒業して教師の職に就く。スンは離れた場所に住んでいたが、しばしばジンチュウの下を訪れ、密会を重ねていたが、ジンチュウの母親は2人の恋愛に反対で、2人が会うことを禁じた。

ジンチュウは、スンが入院したことを知り、スンの病院を訪れた。それは白血病によるものだということだったが、スンは単なる健康診断だと言い張る。2人は店で赤い生地を購入し、サンザシの花が咲く頃に、その生地で作った服で会うことを約束する。

その後、スンの連絡は途絶える。そして、スンが危篤となったとき、ジンチュウは駆けつけたが、もはやスンは会話ができる状態ではなく、そのまま息を引き取った。。。


映画『サンザシの樹の下で』予告編

 

スンが息を引き取る間際に駆けつけたスンは、周りの親族から、ジンチュウに名前を呼んでやってくれと言われるのですが、ジンチュウは名前を呼ぶことができません。その前の方のシーンに伏線があるのですが、恋愛に疎かったジンチュウはスンのことを名前で呼んだことがなかったのです。それほどプラトニックな愛でありながら、2人の心はしっかりと永遠に結ばれていたわけです。とても切ない設定です。

 

文化大革命の際に反革命のレッテルを貼られて肩身が狭い家庭のジンチュウと、党の幹部の身分の家であるスンが、純粋でプラトニックな恋愛感情で結ばれているものの、社会情勢がそれを許さないという設定があまりに切なすぎます。

 

この作品では、ジンチュウを演じたチョウ・ドンユィの透き通るような清純さが光っています。この作品の役柄のために生まれた女優さんといっても過言ではないかもしれません。膨大な人口を抱える中国には、こういう逸材がたくさんいるのでしょう。

 

サンザシの樹の下で日本軍が中国軍兵士を殺害したという政治的な設定が、日本人にとってはやや微妙な心境にさせられてしまいますが、純粋な恋愛ストーリーとしては、とてもよくできた作品でした。