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藤浩志・AAFネットワーク「地域を変えるソフトパワー アートプロジェクトがつなぐ人の知恵、まちの経験」

地域を変えるソフトパワー アートプロジェクトがつなぐ人の知恵、まちの経験

地域を変えるソフトパワー アートプロジェクトがつなぐ人の知恵、まちの経験

 今、地域の活性化を考える上で、アートの力を活用することは必須となってきているような気がします。瀬戸内国際芸術祭、大地の芸術祭を始め、アートが地域の魅力を浮かび上がらせることに成功している事例が多く出て来ていることで、多くの地域において、アーティストが地域に入り込んで、地域を盛り上げる事例が増えているように思われます。

 本書は「アサヒ・アート・フェスティバル(AAF)」の活動を中心に14の事例が紹介されています。沖縄ゴザの「銀天街商店街」でアート作品を展示したりしている事例、近江八幡の「ほんがら松明」保存を核にした「ひょうたんからKO−MA」プロジェクト、徳島県神山町におけるアーティスト・イン・レジデンスによる移住促進の取組、長野県千曲市における中学校を美術館にしようという取組、大分別府の温泉地を舞台とするパブリック・アートのプロジェクト等々、様々な種類のアート・プロジェクトが紹介されています。

 やり方はいろいろ違いますが、共通しているのは、アートが地域のクリエイティビティを活気づけているという点ではないかと思います。アートですから、ある意味何をやるのも自由なわけですから、地域が自由な発想でいろいろな活動をすることができるわけで、そこからクリエイティブな活動や作品が生まれてくるわけです。そうした活動や作品によって、これまで見えてこなかったり、地元の人たちが気がつかなかったような地域の魅力がフッと浮かび上がってくる、というのがアートプロジェクトの特徴ではないかと思うわけです。

 藤氏が次のように述べていますが、全く同感です。

「全国各地にアートプロジェクトという手法が浸透しつつある。それはやわらかなマインドを持った人たちを集め、その地域ならではの魅力を引き出し、様々な新しいスタイルの地域活動を生み出す起爆装置と言えるかもしれない。あるいは地域に潜在している課題に触れ、それを超えようとする態度を示す手段でもあり、アーティストや住民が新しい視点や可能性を見出す現場でもある。」

 また近い意味だと思いますが、AAFネットワークの事務局長の芹沢氏が次のように述べているのも印象的です。

「アートは問題発見、あるいは問題生成型の営みだと思う。(中略)私たちは往々にして、問題があることにも気付かないし、問題があると感じても、何が問題なのか、よくわからないこともしばしばだ。問題がはっきりしていれば、計画も立てられるだろう。しかしそれ以前の状態で、問題が潜在していて容易に見えない時がほとんどだと思う。いまだ気付かれない問題や見落とされた可能性を、アートは顕在化させる力を持っている。」

 地域活性化というと、すぐせっかちにどれくらいの人の入りにつながったか?だとかどれくらいの経済効果があったか?などと成果を急ぎがちですが、アートの取組から直ちに経済効果を生み出そうというのはなかなか難しく、また筋違いだと思います。アート・プロジェクトではまず地域の魅力は何かをじっくりと浮かび上がらせるところから始まり、それを継続することでやがては大きな魅力のアピールへとつながっていくからです。

 今一番注目されている瀬戸内国際芸術祭でも、取組は20年以上前から始まっていたのが、最近になってようやく大きな知名度を得るような取組につながっているのです。だから、一度や二度のイベントで成果を求めようとしてはいけないのです。

 私は個人的に、地域活性化にはアートの要素が不可欠だと感じています。アートの要素がない取組は、どこか平板で薄っぺらく感じてしまうのです。アートの要素が入ることで、一定期間のイベントが終了した後でも作品は残る可能性が高いですし、何よりもクリエイティブなマインドが地域に醸成されるきっかけとなりますので、それがその後の営みにも引き継がれていくような気がするのです。

 本書は全国の取組を網羅したものではありませんが、今後の地域のアート・プロジェクトを考える上で参考になります。