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「レッドクリフ」★★★★☆

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 一言でいえば、非の打ち所がない完成度の極めて高い映画です。見る側を決して飽きさせることのない映画の構成、トニー・レオン金城武をはじめとする絶妙な配役、効果的で過剰感のないCGの活用、そして何と言っても大胆で繊細なアクションシーン、どれをとっても比類のない出来です。

 ストーリーは三国志に依拠しているもので、赤壁の戦いを中心に描いた作品です。漢の皇帝を操る魏の曹操(チャン・フォンイー)は、圧倒的な大軍をもって劉備(ユウ・ヨン)の軍に襲いかかります。劉備の軍は、趙雲(フー・ジョン)や関羽(バーサンジャプ)、張飛(ザン・ジンシェン)らの大活躍にもかかわらず守勢となり、劉備の軍を慕う人々を連れて敗走することになります。

 劉備の軍の戦略を担当する諸葛孔明金城武)は、曹操の軍を打ち破るためには、呉の孫権チャン・チェン)と手を結ぶしかないと考え、呉に乗り込んでいきます。孫権の軍を統括するのは周瑜トニー・レオン)を説得する。周瑜諸葛孔明からのラブコールに対して、言葉ではなく、琴の演奏を持って同意の意思を伝えます。

 そしてついに、周瑜諸葛孔明は手を携えて曹操の軍を迎え撃ちます。曹操の軍は水軍を中心に攻めてくると思われたものの、諸葛孔明らはあらかじめ相手が騎兵で攻めてくることを読み、曹操の軍を罠にはめて見事これを打ち破ります。

 しかし、曹操の膨大な兵力を擁する水軍が後に控えています。周瑜らの守る赤壁に面する川に曹操の水軍は静かに集結します。曹操がここまで執拗に呉への攻撃にこだわるのは、曹操が若い時分に出会った絶世の美女で今は周瑜の妻となっている小喬(リン・チーリン)を自分のものにしようという動機があったことも明らかになってきます。その圧倒的な水軍をいよいよ迎え撃とうという場面でPart1は幕を閉じ、Part2へとつながっていきます。


 この作品の中では、CGを徹底的に活用しつつ迫力溢れるアクションシーンがこれでもかとばかりに登場するのですが、こうしたアクションシーンの中に、内面のかけひきが鮮やかに表現されているところが大変よくできています。この点については、ジョン・ウ監督自身、黒澤明監督の『七人の侍』を参考にしていることを明かしているようですが、確かに『七人の侍』は単に迫力だけを追求するアクションシーンではなく、個々のプレイヤーの個性を描き出しながら感情が通った戦闘シーンを描き出しています。この作品のアクションシーンもただ迫力だけで押すようなアクションシーンでは決してなく、人情が流れたものとなっています。

 おそらく、こういう点は欧米のハリウッド監督にはまねできない部分でしょう。

 琴を通じて周瑜諸葛孔明が互いに意思疎通をする場面の迫力は鬼気迫るものがあります。琴の激しい演奏の音色の中に、曹操の大軍を戦う決心をする2人のすさまじい気迫が見事に表現されているのです。これはこの作品の中の最大の名場面の1つでしょう。

 それにしても、この映画を見終わった後の余韻は、過去に覚えがないくらい衝撃的なものでした。映画の最初から最後まで背筋がぞくぞくとしっぱなしだった経験も、ほとんど記憶にありません。続編へのつなぎ方も絶妙です。

 岩代太郎氏の壮大なスケールのテーマ曲も耳にこびりついて離れません。

 この作品は大スクリーンの映画館で見るに限ります。