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映画、書評、ジャズなど

「東京物語」★★★★

 

 日本映画を代表する小津安二郎の代表作の一つです。この作品はもう何回観たか分かりませんが、時々無性に観たくなる作品です。

 

ストーリーは至ってシンプルで、尾道に住む周吉(笠智衆)とその妻とみ(東山千栄子)の年配夫婦が、大きくなって故郷を離れている息子や娘たちを訪ねて東京に向かうという話。長男の幸一と長女の志げは、共に両親を温かく迎えるものの、二人とも仕事に忙しく、なかなか両親を東京観光に連れていけない。

そんな中、戦争で8年前に死んだ次男の未亡人の紀子(原節子)は、仕事を休んで2人をあちこちに連れて歩くなど、丁重にもてなしてくれる。

居場所が無くなってきた周吉ととみは、志げの勧めで熱海の温泉旅館に泊まるのだが、宴会などで騒々しい雰囲気に馴染めず、当初の予定を切り上げて東京に戻ってくる。

周吉は旧友と深酒をして、泥酔状態で旧友と共に志げの家にたどり着き、煙たがられる。その間、とみの相手をしていたのは紀子だった。

やがて2人は尾道に戻るが、その後まもなく、とみが危篤となる。子供たちは尾道に駆けつけ、紀子も尾道に向かう。とみは子供たちに見守られながら息を引き取る。仕事のある幸一や志げはすぐに東京に戻る中、紀子だけは1日遅らせて東京に戻る。

周吉は、実の子供たちよりも義理の娘の紀子の方が自分たちに良くしてくれることに感謝するのだった。。。


『東京物語 ニューデジタルリマスター』予告編

 

淡々と話が進んでいく作品で、エンターテイメント性という視点ではやや物足りない面はありますが、この時代の世相を実に良く描いています。急速に戦後復興が進む東京の早いテンポに、田舎から上京した老夫婦がなかなか馴染めないのは、それだけ急速に世の中が変化している様を表しています。

そして、この作品の肝は、紀子の存在でしょう。実の子供たち以上に義理の両親の世話をする存在であるわけですが、紀子が戦争未亡人であるということが、この作品の時代背景を象徴しているように思います。

この時代の日本映画には多くの戦争未亡人が登場するわけですが、この点について、川本三郎氏が『今ひとたびの日本映画』の中で、次のように述べているのが印象的です。

「戦後日本映画は、おそらく―、戦争未亡人を描くことで、ついこのあいだの戦争で死んだ多くの死者たちを追悼、鎮魂しようとしたのだ。(中略)彼女たちは、女性であるという受身の立場によって侵略戦争の加害性から免れることが出来た」

この作品中の紀子も正にそうした無垢な戦争被害者として描かれているように見えます。この時代の状況を考えると、戦争それ自体を真っ向から描くことは難しかったものの、かといって戦争に触れずに通り過ぎるわけにもいかない、そこで、戦争未亡人を登場させることで、作品と戦争とのつながりをかろうじて維持することができた、という面があるように思います。

 

それにしても、この作品が制作されたのが1953年ですから、戦後の日本映画がこれだけ早く復活したことに驚きを禁じえません。

そして、こうした地味だけど日本人にしか作れないような小津作品が、海外でも高い評価を得ていることは本当に素晴らしいと思います。

 

これぞ日本映画の原点のように思います。