本書は著者の代表作であり、とても切ないながらも清々しい作品です。
翻訳家の四条直美が脳腫瘍で亡くなるが、その際、アメリカ留学中の娘の葉子のもとに、直美が自分で吹き込んだ4巻のテープが送られてきた。そこには、直美が青春時代に恋した臼井という男との切ない恋愛が語られていたのだった。
直美の家は祖父がA級戦犯で、直美は父親から厳しく育てられ、大学卒業後は父の言いなりで出版社に勤めた。親の紹介の許婚もいた。しかし、親に対する反抗心から、直美は出版社を辞め、大阪万博のコンパニオンとして大阪に向かう。当時大阪万博は全国から優秀な人材が集まっていた華やかな場所だった。そこで直美が出会い心惹かれたのが、臼井だった。臼井は数々の言語を操る優秀な京大生だった。周囲からは、将来は外交官として活躍することを期待されていた。
臼井はフランス育ちのコンパニオンと付き合っているという話だった。しかし、あるとき、そのコンパニオンは東京に帰ってしまった。2人が一緒に乗っていた車が事故を起こしたのが原因らしかったが、その真相は謎だった。臼井も大阪万博の仕事を辞めたとのこと。
直美は臼井の実家がある京都に向かう。そこで直美は、臼井の妹の成美と出会う。成美は祇園のスナックで働いていた。そのとき臼井は外国に行っていたが、その後、臼井が帰国し、直美と再会する。2人は下鴨神社で口づけを交わした。
心配した両親が大阪にやってくる。母親は臼井と面会し、臼井のことを気に入ってくれた。
ある日、直美は親友と一緒にいるところに、かつて臼井と付き合っていたフランス育ちのコンパニオンがやってきた。彼女は、臼井の両親が北朝鮮出身であることを直美に告げた。彼女によれば、臼井は北朝鮮の工作員とのことだった。
直美はその後大阪を去り、臼井とは連絡を取らなくなった。そして、父親の紹介で新聞記者の男と結ばれ、結婚することに。臼井の妹の成美はわざわざ東京まで直美に会いに来たが、その後まもなく成美が死亡したとの知らせを受ける。亡くなったのは水曜日の午前三時だった。
直美は成美の命日に墓参りに京都へ。そこで臼井と再会する。2人はしばらく外を散歩した後で、直美の宿泊している部屋で過ごした。
その後、直美は臼井の出身地の舞鶴を訪れる。そこで直美は、臼井の父親は小さな鉄工所で働き、母親は行商をやっていたことを知る。
直美が亡くなった後、義理の息子の主人公は大阪で大学教員をしていた臼井のもとを訪ね、談笑したのだった。。。
若かりし直美が臼井との情熱的な恋愛を経験し、その後も臼井との思い出を胸に抱きながら生き、最後に息を引き取っていくストーリーが、とても切ないです。直美は若くして亡くなるわけですが、そこには悲壮感はなく、清々しさに満ちています。それは、直美の悔いのない生き方によるものです。
最後の方で直美が残している言葉が印象的です。
「私は時間をかけて、どこかにあるはずの宝物を探し回っていたのです。ただ漫然と生きていては何も見つけることはできない。でも、耳を澄まし、目を見開いて注意深く進めば、きっと何かが見えてくるはずです。」
この直美の人生観こそがこの小説の主題であり、多くの読者を惹きつけているのだと思います。
ちなみに、この小説の中には、多くの洋楽ロックも登場して、当時の空気感の醸成に貢献しています。
3 DOG NIGHT-"AN OLD FASHIONED LOVE SONG" (W/ LYRICS)
Creedence Clearwater Revival: Have You Ever Seen The Rain?
セルジオ・メンデスが大阪万博で公演していたことにも少し触れられていますが、とても新鮮です。
- アーティスト: セルジオ・メンデス&ブラジル’66
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2008/02/27
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著者の作品は数年前に『かなしい。』を読んだことがありましたが、独特の切ない空気感に感銘を受けました。
読後感が心地よい素晴らしい作品でした。