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映画、書評、ジャズなど

村上春樹「女のいない男たち」

文学 村上春樹

女のいない男たち

女のいない男たち

 久しぶりにゆっくりと読書する時間ができ、村上春樹氏の短篇集を手に取りました。既出作品に書き下ろしの表題作を加えたものです。

 『ドライブ・マイ・カー』は、俳優とその専属運転手となった女性が登場する短篇。その俳優は妻を亡くしたばかりであったが、その妻と生前浮気していた俳優と奇妙な親交を持つことになり、その心境を専属運転手に打ち明けるという話。亡くなった妻がその男と浮気をしなければならなかったかを主人公の俳優は知りたかった。

 『イエスタデイ』は、ビートルズの表題曲を関西弁でアレンジして歌っていたという主人公の大学時代の友人の話。バイト先が同じだったその友人は関西人ではないが後天的に関西弁を獲得したという男で浪人中の身だった。その男が幼なじみの彼女を主人公に紹介して、2人はデートする。2人の関係は続かず、その男もバイトを去っていったが、16年後に主人公と彼女は偶然パーティーで再会する。関西弁の男はデンバーですし職人をしているとのことだった。

 『独立器官』は、これまで結婚経験がない52歳の渡会医師の話。多くのガールフレンドを持ち、代わる代わる関係を持っていた。渡会医師はある一人の家族持ちの女性に惚れ込んでしまう。主人公はその心境を打ち明けられる。ところがある日突然渡会医師の秘書から連絡があり、渡会医師が亡くなったことを告げられる。亡くなった原因は恋煩いであった。惚れ込んでいた女性には第三の男がおり、彼女は夫と子供を残して家を出てしまったとのこと。秘書は主人公に医師から預かったスカッシュのラケットを渡した。

 『シェエラザード』は、シェエラザードと名づけられた専業主婦と逢瀬を重ねる男の話。決して美貌ではないが、話術に長けており、週に二度男の家にやってきた。シェエラザードは自分の前世はやつめうなぎだと主張する。彼女は10代の頃に好きな男の子の家に空き巣に入った経験を告白する。その男の子の家に入り鉛筆を盗んだり、自分のタンポンを引き出しの奥に置いてきたりすることで高揚感を得ていたが、やがて彼の汚れ物のTシャツを持って帰ったとのことだった。

 『木野』は、バーを営む木野という名の主人公の話。もともとスポーツ用品の販売会社に勤めていたが、妻の浮気をきっかけに離婚し、バーのマスターとなった。客にカミタという男がおり、傍若無人の客を処理する謎の男だった。木野はあるとき店に寄りついていた猫がいなくなり蛇が姿を見せるようになったことに気付く。そしてある日カミタから店を閉めるべきことを告知される。木野はそれに従い、その夜のうちに荷物をまとめて旅に出た。熊本のビジネスホテルに滞在しているとき、夜中にドアをノックする音に気付く。木野は静かに涙を流す。

 『女のいない男たち』は、ある日突然、昔の彼女が亡くなったことをその夫から電話で告げられる話。男は亡くなったその女性のこと、ある日突然「女のいない男たち」になったことについて思索に耽る。


 以上が各短篇のあらすじですが、これらの短篇を貫くモチーフが文字どおり「女のいない男たち」ということになります。その意味するところは分かりやすそうで分かりにくい部分もあるのですが、いずれにせよ、いずれの短篇に登場する男たちも孤独を抱えています。女たちはスーッと男たちのもとを去っていき、男がポツンと取り残される、そんな切ない光景がどの短篇からも浮かびます。

 しかし、どの短篇も、絶望につながるような感じではなく、そうした状況をクールな視線で捉えているところも、村上春樹氏らしい筆致であると言えます。そこにはある種の諦めの感情も合わさっており、やがてはまたありふれた日常が淡々と続いていくことが予見されているような感じです。

期待に違わず、村上氏の魅力を存分に堪能できる短篇集でした。