- 作者: 田中秀臣
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2010/12/07
- メディア: 単行本
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AKB48の特徴はもちろん、秋葉原に専用の劇場を作った点です。当初はかなり低料金で、利益が出ないような状況だったようですが、これは若くて収入の低いアイドルおたくを顧客ターゲットとして想定されたものです。
他方、おにゃん子クラブは、テレビ中心であり、この点がAKB48との最大の違いだと著者は指摘されています。テレビ中心ですから、どうしても視聴率が低くなればグループは解散しなくてはならなくなります。
つまり、おにゃん子クラブは、テレビで大衆を押さえて一気に投資を回収するモデルであったのに対して、AKB48は劇場でコアなファンを押さえて細く長く続けるという戦略を採ったため、おにゃん子クラブが2、3年で解散したのに対して、AKB48は長生きできているのだというわけです。
また、著者はテイラー・コウェンが、リーマンショック以降、旧来の財やサービスに対する消費が低下し、ネットを利用した「心の消費」が増加している点に触れているのは、大変興味深い点です。AKB48は、それぞれのメンバーがブログなどを通じて小さな物語を発信し続けており、それに対して多くのネットワーカーが自分の小さな物語を接続しているわけで、そういう意味において、AKB48は「心の消費=デフレカルチャー」を象徴する存在だと、著者は指摘しています。
それ以外にも、AKB48と大相撲の雇用形態の類似性などについても本書の中で指摘されています。
AKB48は2010年度のグッドデザイン賞の金賞にも選ばれるなど、注目すべきビジネスモデルであることは言うまでもありません。秋元康氏プロデュースということで、当初は多くの人々がおにゃん子クラブの再来といった捉え方をしていたように思いますが、本書を読むと、その戦略には根本的な隔たりがあることがよく分かります。
http://www.g-mark.org/archive/2010/award-best15.html
一番納得がいく部分は、AKB48がテレビ依存型ではない新たなモデルだという点です。確かに今でこそAKB48はテレビで頻繁にメンバーが登場しているわけですが、本書でも指摘されているとおり、仮にテレビでの人気が落ちたとしても、再び劇場中心に立ち返ることができるモデルとなっているわけで、その点、デフレ経済をうまく捉えたビジネスモデルだという点はなるほどと感じます。
そして、かつての高度成長下の「大きな物語」に依存する社会から、現代社会は「小さな物語」によって支えられている社会であるわけですが、そうした社会を支える物語の変化とAKB48のビジネスモデルがうまくマッチしているという点も本書からよく分かります。
総選挙という仕組みは、正にこうした物語をメンバーとファンが共同して築き上げていく巧妙なプロセスだと思います。自分が応援しているメンバーを上位に食い込ませることを通じて、物語が進展していくのだと言うことができるでしょう。これは、現代社会のトレンドをうまく捉えているような気がします。
それにしても、現実の政治闘争よりもAKB内の疑似総選挙の方がはるかに面白く感じてしまうところに、今の政治のふがいなさを感じてしまいます。