- 出版社/メーカー: 日活
- 発売日: 2002/11/22
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いずれの映画も、高度成長期の日本社会で、貧しいながらも希望を持って力強く生きる人々の姿を描いたものですが、「ALWAYS 三丁目の夕日」の方はあまりにも明るく描かれ過ぎているのに対して、この「キューポラのある街」の方は、この時代の様相をより素直に、かつ、ありのままに描いているように思います。
何と言っても吉永小百合の初々しさが光るこの映画ですが、高度成長期の希望に満ちあふれた側面よりも、むしろこの時代の負の面を正直に描いているところに好感が持てます。
キューポラとは鋳物を作るために溶鉱炉のことで、この映画の舞台はキューポラが立ち並ぶ埼玉県川口市です。鋳物職人である主人公ジュン(吉永小百合)の父は、町工場でけがをしてからは働き口がなくなり、有り金も競輪につぎ込んで使い果たしてしまう始末。父親は、ジュンの友人の親が経営する工場で働かせてもらうが、職人気質が邪魔をしてすぐに辞めてしまう。
そんな苦しい生活環境にもめげず、ジュンは高校に進学するためにがんばって勉強している。しかし、家計のためにパチンコ屋で働かなければならず、修学旅行に行くお金も払えない。挙げ句に、母親は夜飲み屋で働いていることが分かる。
友人の中には、新国家建設の希望にみなぎって北鮮に帰国する在日の人たちもいる。
つまり、この映画には、この時代のある意味暗い側面が包み隠さずに描かれているのです。
これは、この映画が作られたのが1962年という未だ高度成長期真っ只中であり、いわば同時代を描いた映画だという点が大きく影響しているように思われます。その分、「ALWAYS 三丁目の夕日」に比べて、時代の描写が正直なのです。
結局、ジュンは工場に勤務しながら夜間高校に通うことになる。ジュンの父親も人手が足りない工場に働けることになる。ジュンの弟も新聞配達を頑張ることにする。弟の友達も希望を持って北鮮に旅立っていく。みんなに笑顔が戻ったところで、清々しくこの映画は幕を閉じます。
後味が大変すっきりした非常に好感の持てる映画でした。