- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2006/06/09
- メディア: DVD
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映画の舞台である1950年代後半という時代は、我が国の高度成長が始まり、経済白書が「もはや戦後ではない」と宣言した頃です。経済は「二重構造」と言われ、貧富の差が大きいという意味では、格差社会が騒がれている今日と共通する面があります。
しかし、当時の社会が今日の社会と決定的に異なる点は、全国民が共有する希望があったことです。リオタールの言葉で言えば「大きな物語」です。近代化、工業化を推し進めることによって、世の中が幸せな方向に向かっていくのだという漠然とした希望があり、そして、多くの国民がその物語の主人公になれたわけです。そこには、近代の強力なパラダイムが働いていました。この映画に出てくる堤真一演じる鈴木オートの社長も、小さな町工場の社長ではありましたが、いずれは世界を股にかける会社になるのだという希望を表明しています。たとえそれが実現困難な夢であっても、そうした夢を語ることが許された時代だったわけです。
しかし、こうした近代の強力なパラダイムは1970年代に入り高度成長が一段落する頃、大きく崩れていきます。そして、ローマクラブによる『成長の限界』という報告書が大きな注目を浴びるなど、近代のパラダイムを支えてきた「進歩」や「成長」という概念が大きな批判にさらされるようになります。この頃以降、日本社会のみならず多くの先進国は目標を失い、いわば「迷走状態」に入ったのだと思います。
- 作者: ドネラ H.メドウズ
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 1972/05
- メディア: 単行本
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70年代以降の社会は、経済的に裕福になった反面、高度成長の負の遺産を抱え、しかも近代の目標に代わる新たな目標を見いだすことができずに今日まできているように見受けられます。かといって、今更この映画で描かれているのと同様の「希望」を蘇らせることは無理でしょう。「進歩」や「成長」といったキーワードの力がもはや廃れてしまった今日、我々は希望を託すことができる別のキーワードを探さなくてはならないと思います。この映画の各シーンに極めて郷愁の念にかられると同時に、そうは言っても再びこの時代に戻ることは無理だろうという「ジレンマ」にもおそわれてしまうのです。
と、いろいろ脱線してしまいましたが、この映画が「ポストモダン」(あるいは「第二の近代」)を生きる多くの日本人の琴線に触れたことは間違いありませんし、私が近年見た日本映画の中では間違いなく群を抜いて楽しめた映画でありました。
この映画を見た帰り道の夕日がとてもきれいだったのですが、映画の最後に鈴木オートの1人息子の一平が叫ぶ「50年先だって夕日はきれいだよ」というセリフをとても今の時代において叫ぶ気にはなれなかったのが無念でした…。