著者の作品は今回初めて読んだのですが、美術作品に絡んだミステリーで、とても楽しめる作品でした。
大原美術館で監視員をしている早川織絵。娘と母親と3人でひっそりと過ごすシングルマザーであったが、ある日、館長に呼ばれ、NYの美術館MoMAからアンリ・ルソーの絵『夢』の貸出に向けた交渉を任せられた。MoMAのチーフ・キュレーターのティム・ブラウンから織絵を交渉の窓口にするよう指名があったというのだ。
話は織絵が若かりし頃に遡る。当時MoMAのアシスタント・キュレーターを務めていた。ある日、伝説の絵画コレクターのバイラ―氏の代理人から、バイラ―氏が所有するルソーの名作を調査するよう、バーゼルに招待するとの手紙が届く。ティムは、自分の上司への手紙が間違って自分あてに送られてきたのではないかと疑いつつも、休暇を取ってバーゼルに向かう。
もう一人、バイラ―氏に招待されてバーゼルに来ていたのが、若かりし頃の織絵だった。バイラ―氏が所蔵したのは、MoMAの『夢』と類似の未知の絵だった。ティムと織絵に、ルソーにまつわる物語を順番に読ませ、そのうえで、この作品の真贋を分析してもらい、勝者はこの絵の扱いを自由に委ねられるという条件だった。
物語には、ルソーが恋したヤドヴィガという人妻とその夫が登場する。ヤドヴィガの夫は、ルソーが自分の妻に恋をしていることを知りつつ、ルソーの才能に惚れ込み、ルソーを支援していた。
この勝負の結果、ティムが勝利した。ティムはバイラ―氏から得たこの絵を巡る権利を使って大金を得ることもできたが、バイラ―氏の孫でインターポールに所属するジュリエットにこの絵を託すことにした。
そしてティムはあることに気付いていた。この物語で登場するヤドヴィガの夫こそ、このバイラ―氏であることを。。。
多くの天才画家は、売れないまま亡くなってしまい、死後に名声を獲得しているので、実は生前については未知の部分が多いわけですが、だからこそ想像力が掻き立てられ、ミステリーの題材としては適しているように思います。
この作品では、そんな天才画家たちのミステリアスな部分を見事に生かして、素晴らしい物語となっています。
物語の時制が現在と物語の中の過去とを行ったり来たりするという構成が大変効果的で、特に、バイラ―氏の提示した物語の中のルソーの記述には、グッと引き込まれます。
著者の経歴を見ると、大学時代に美術を専攻され、キュレーターの仕事もやっておられたので、とても現実感があり、物語も隅々まで説得力があります。
また、私個人としてもアンリ・ルソーの作品には惹かれていたので、この作品には強く共感できました。
この著者の作品はまた読んでみたいと思います。