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映画、書評、ジャズなど

「叫びとささやき」★★★★

 イングマール・ベルイマン監督の1973年の作品です。全編を恐ろしい空気が覆い、人間の醜い部分が徹底的にあぶり出されているような作品です。

 ある邸宅に住むアグネスは重い病に冒され、死期が迫っている。一緒に住んでいるのは召使いのアンナ。アグネスの姉のカーリンと妹のマリアは邸宅を訪れて、アグネスを見舞っている。

 カーリンは外交官の旦那がいるが、旦那が肉体関係を迫ってくると、カーリンは自分の局部をガラス片で斬りつけ、血だらけになる。

 マリアは、旦那がいないとき、アグネスの往診に来た医師を誘い、肉体関係を求めるが、医師に鏡の前で歳を取ったことを諭される。マリアの旦那はかつて妻の浮気を疑って自殺未遂を起こしていた。

 そんな身勝手な姉と妹に対し、召使いのアンナだけが献身的にアグネスを看病する。アンナは苦しみで絶叫するアグネスを裸になってそっと抱きしめる。

 アグネスはかつて邸宅で母親と三姉妹が幸せに過ごしているときの思い出に浸りつつ、やがて命を落とす。魂はなかなか成仏しなかったが、やがて鎮まる。姉と妹は邸宅をさっさと処分して、召使いのアンナを解雇する。

 アンナが残されたアグネスの日記を読むと、そこには幸せな日々に感謝する言葉が書き連ねられていた。。。

 最後、真っ赤な背景の中に、

「叫びもささやきもかくして沈黙に帰した」

という言葉が表示され、チン!という物悲しい音がして作品は終わるのが印象的です。

 何とも不思議な作品で、最初から最後まで鬼気迫る雰囲気を醸し出しています。

 ベルイマン監督の作品は、常に、人間の醜い内面をこれでもかというほどあぶり出し、それを芸術に昇華して美しい場面とともに表現しているように思います。

 この作品でも、姉と妹たちの身勝手さが、献身的な召使いのアンナとの比較であぶり出されているように思います。

 苦しむアグネスを上半身裸のアンナがそっと抱きしめるシーンは、とても芸術的です。

 淀川長治氏は、この作品について、以下のように述べています。

ベルイマンのこの映画は、生きることと死ぬことを、ほんとうに教え、しかも、四人の女で、女というものを教えたんですね。女とはなにか。そして生と死。これが、この映画の生命じゃないか、と私は思います。」

 双葉十三郎氏も、この作品について、

「女性の深奥をこれだけ厳しく描いた作品は珍しく」

という言い方をされておられます。

 いずれにしても、さすがベルイマン監督の作品だけあって、心の奥底にぐさりと突き刺さるような作品でした。