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映画、書評、ジャズなど

ポール・オースター「リヴァイアサン」

文学

リヴァイアサン (新潮文庫)

リヴァイアサン (新潮文庫)

 一人の作家が、親友のベンジャミン・サックスについて語っている小説です。オースターらしさが良く出ている良作です。

 物語は、一人の男が爆死した事件から始まる。語り手の作家エアロンの下には、FBI捜査官がやって来る。爆死した男がエアロンの連絡先を持っていたからだ。

 エアロンは、15年以上昔、ある朗読会でサックスと出会い、その後、意気投合する。サックスはかつて良心的兵役拒否により刑務所に収監された過去を持ち、ソローに憧れている人物だった。妻のファニーは、エアロンがかつてコロンビア大学に在学中に憧れを抱いていた女性だった。エアロンもやがてディーリアという女性と結婚し、一児をもうけるが、結婚生活は長続きしなかった。

 サックス家には、様々な女性が出入りしていた。エアロンはその中のマリアという女性と親しくなる。マリアは街中の知らない人を尾行して写真を撮ることにこだわる芸術家だった。その後エアロンは、サックス夫人のファニーとも恋仲になるが、それ以上の進展はなかった。

 その後サックス夫妻の関係は、ある事件を契機としておかしくなっていく。パーティーの最中に、サックスが非常階段から転落したのだった。命拾いはしたものの、以来サックスはファニーと口を閉ざすようになる。その後サックスから聞いたところによれば、サックスはパーティーに参加していたマリアの魅力に抗しきれず、マリアを非常階段に連れ出してわざと非常階段の手摺りにこしかけて、マリアがサックスを支えざるを得ない状況を作り、肉体的な接触を求めたということだった。ところが、別の女性が転んだはずみでマリアが押され、サックスは非常階段から転落したのだという。この事件を契機として、サックスはファニーと離れていき、マリアと近づいていく。

 ファニーは別の男と恋仲になっていく。サックスは一人で執筆活動に励んでいく。そのタイトルは『リヴァイアサン』だった。あるとき、サックスは散歩で森の中に出かけたところ、迷ってしまう。朝になって通りかかったピックアップトラックに乗せてもらったところ、別の車に遭遇し、運転手同士が口論となり、ピックアップトラックの運転手が銃で撃たれた。サックスは、車の中にあったバットで相手の男を打ちのめし殺害し、そのまま、相手の男の車で逃走を図った。

 その車には大量の現金が積まれていた。そのままファニーの下に向かったが、そこでファニーが他の男と寝ているところに遭遇し、マリアの下に向かう。しかし、この判断が思わぬ結果を生む。車に積まれていたパスポートに記載されていたディマジオという男は、マリアの旧友のリリーの元夫だったのだ。つまり、サックスは、マリアの親友の元夫を殺害したのだった。

 リリーはかつて娼婦のような行為をしていた魅力的な女性だった。ディマジオとの間に子供をもうけたが、その後ディマジオと別れていた。

 これを聞いたサックスは、ある決心をする。それは、リリーの住むカリフォルニアまで行って、車に積まれていた現金をリリーに渡すということだった。サックスは、マリアに相談せず、リリーのもとに向かう。話をためらうリリーを説得し、サックスはリリーの家に滞在することを許され、昼間は娘のおもりをしていた。リリーは当初サックスと距離を置いており、サックスもいつ追い出されるのかと思っていたが、やがてリリーの方からサックスを求めてくる。しかし、そんな生活も長続きせず、サックスはリリーのもとを離れる。

 サックスはかつての仕事場のあるバーモントに戻る。そこではエアロンがかつてのサックスの仕事場で執筆活動をしていた。その頃、米国中の自由の女神が爆破される事件が相次いでいたが、サックスはそれが自分の行為であることを告白する。リリーの家に残されていたディマジオの博士論文をサックスは見つけたのだが、それはバークマンというアナーキストについて書かれたものであり、る種の政治的暴力を正当化する内容だった。サックスは、あることを思いつく。それは、ディマジオが残した金を使って、ディマジオの思想を実行するということだった。こうしてサックスは、米国中の自由の女神を爆破し続けているのだった。

 サックスは置き手紙を残してエアロンのもとを去っていく。エアロンはマリアに会い、リリーの連絡先を教えてもらったが、リリーに会うことはできなかった。そんなとき、一人の男が爆死したというニュースに接する。エアロンはその男がサックスかもしれないことは気付いていたが、訪ねてきたFBI捜査官には言わなかった。やがてそのFBI捜査官は、死んだ男がサックスであることを突き止める。エアロンは、真実が書かれた本書の原稿をFBI捜査官に手渡した。。。


 オースターの巧妙なストーリー展開と、柴田元幸氏の読みやすい訳のおかげで、ぐいぐいと引き込まれていく作品でした。本書の最大の魅力は、サックスのある種の無垢さにあるように思います。自分が意図せずして殺害してしまった男の家族を助けようとし、やがてはその男の思想を自ら実現しようとし、最後は爆死を遂げる姿は、滑稽でありながらも、ある種の誠実さを持ち合わせています。女性に対する考え方も、不器用ながらも誠実であろうとする姿勢を感じます。このキャラクター設定が、本書の最大の魅力と言えます。

 また、登場する数々の女性たちもそれぞれの魅力を持ち合わせています。

 ちなみに、訳者あとがきによれば、マリアには実際のモデルが存在するようです。それはフランス人芸術家のソフィ・カルだそうで、探偵に尾行させるエピソードは実際にカルが行っていたことだそうです。

本当の話

本当の話

 これまで読んだオースターの作品と比べても、良くできている方の作品だと思います。