- 作者: アリス・マンロー,小竹由美子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/03/29
- メディア: ハードカバー
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本書は9つの短篇が収められていますが、もっとも印象的だった作品の一つ“恋占い”は、少女たちが出した偽のラブレターを信じた未婚の家政婦が、主人の義理の息子のもとへ旅立っていく話。結果的には、2人は結ばれて子供にも恵まれた家庭を築きます。
“浮橋”は、夫婦の中に、夫が勤める施設にいた娘が入ってくる話。病身の妻は、夫とその娘がいない間に、少年と浮橋に行って口づけを交わす。
“家に伝わる家具”は、主人公の父のいとこのアルフリーダの話。主人公がアルフリーダの身の上とそっくりな物語を書いたため、疎遠な関係になる。父の葬式にはアルフリーダの子供がいた。しかも、アルフリーダと父の間には恋愛関係が。。。
“なぐさめ”は高校教師の夫が自殺する話。夫は学校内のクリスチャンたちと対立しながら科学を教えていたが、その後退職。その葬儀を取り持った葬儀やと主人公との間には穂のかな恋愛関係が。。。
“イラクサ”は、主人公が幼い頃、井戸掘りに来た職人の息子と後年再会する話。一緒にゴルフに行ったところ雨が降り出し、2人は草むらでキスをする。そのとき2人はイラクサにかぶれたと思ったが、それはイラクサではなかった。2人は共に重荷を背負いながら人生を歩んできていたのだった。。。
“ポスト・アンド・ビーム”は、大学の教官の夫と結婚した女の下を、いとこの女が訪ねてきた話。家には夫のかつての教え子もしばしば遊びに来ていた。ある日、夫婦が留守にしている間、いとこと教え子が出くわし仲良くなっていた。主人公の女は嫉妬を感じる。
“記憶に残っていること”は、主人公の夫の旧友が亡くなり、夫婦は一緒に葬儀に出席したが、妻は葬儀で出会った医者の車で、昔世話になったおばさんが入所している施設を訪ねる。主人公と医者は途中キスを交わすが、その後、医者は救急縁の事故で命を落とす。その後、夫婦は長期間一緒に寄り添い遂げたが、それは医者との一件があったからだった。。。
“クィーニー”は、音楽の先生と駆け落ちした姉のもとを主人公が訪ねる話。姉は再び失踪する。
最後の“クマが山を越えてきた”は、認知症の妻が入所している施設を主人公が訪ねる話。妻は訪ねてきた夫のことを認知できておらず、同じ施設にいる男と仲良くしており、主人公は嫉妬を感じる。その男の妻を訪ねると、その妻から誘いを受けたが、主人公には妻を見放すことはできなかった。。。
以上が短篇のおおまかな内容ですが、個人的に一番印象に残ったのは、最初の“恋占い”と最後の“クマが山を越えてきた”です。
いずれの作品に共通するのは、作品の中に、淡い恋が混じっていることでしょう。それが成就したものもあれば、成就しなかったものもありますが、恋が成就しなかった場合も、なぜか清々しい余韻を残してくれます。
本書では、人生におけるちょっとした恋愛経験や恋愛感情が、人生の支えとなったり、重荷となったりしますが、誰しもそんな経験の一つや二つくらい持ち合わせているのではないでしょうか。
本書を読んで、アリス・マンローの世界観に大いにはまってしまいました。ノーベル文学賞を受賞するだけあって、とても素晴らしい小説家だと思います。