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「5つの銅貨」★★★★

5つの銅貨 [DVD]

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 ジャズ・トランペッターのレッド・ニコルズの半生を描いた作品です。ジャズ映画作品といえば必ず名前が挙がる映画で、ルイ・アームストロングが自身の役として出演するなど、ジャズファンにはたまらない作品となっています。

 ユタの田舎からニューヨークに出て来たニコルズは、歌手のボビーと恋に落ち、程なく結婚する。バンドに加入するが、ほどなくして辞め、自らのバンドを結成する。そのバンドには、トミー・ドーシーやグレン・ミラーも加わっていた。
 やがて娘のドロシーが生まれ、ドロシーをライブに連れて行くなど、家族は幸せな道を歩んでいたが、ドロシーが小児麻痺になり、後遺症が残ってしまう。これを機に、レッドはジャズ・トランペッターを辞める決意をして、トランペットを海に投げ捨てる。

 レッドは造船所で働くことになるが、やがて娘のドロシーが成長し、後遺症も克服してくると、再び演奏活動を始める。

 久々のステージでは、観客が集まるか心配だったが、ルイ・アームストロングなどかつて一緒に演奏したメンバーたちがサプライズで出演し、復帰を歓迎した。娘のドロシーも一人で歩ける姿を披露し、父のレッドとダンスを楽しんだ。レッドはかつての自身を取り戻しつつあった。。。



 レッド・ニコルズは、1920年代の一時期、大変売れたジャズ・トランペッターで、グレン・ミラーやトミー・ドーシー、ベニー・グッドマンなど、スイング・ジャズを牽引するレジェンドたちを従えていた人物なのですが、ジャズの歴史の中では、あまり目立たない存在になってしまっています。

 レッドが生きた時代は、ちょうど時代がデキシーランド・ジャズからスイング・ジャズと言われた時代へと移り変わるときでした。レッドはちょうどその移行期にあって、時代にうまく乗れなかった人物と言えるように思います。そこに、娘の小児麻痺の問題も重なり、レッドは完全にジャズの歴史から忘れられてしまう存在となってしまったと言えます。確かにコルネットの演奏技術は優れていたわけですが、時代を切り開いていく能力という意味では、他のミュージシャンたちほどの能力はなかったのかもしれません。

 ジャズ・ファンにとっては、ルイ・アームストロングがこれだけ存分に見られるのが、大きな収穫です。