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映画、書評、ジャズなど

ジェフリー・アーチャー「ケインとアベル」

文学

ケインとアベル (上) (新潮文庫)

ケインとアベル (上) (新潮文庫)

ケインとアベル 下 (新潮文庫 ア 5-4)

ケインとアベル 下 (新潮文庫 ア 5-4)

 ジェフリー・アーチャーの代表作長編作品の一つで、第二次大戦期をはさんだ激動の時代を生きる境遇の全く異なる2人の主人公がそれぞれ力強くアメリカ社会を生きる様子を描いた壮大な作品です。

 ケインはアメリカの銀行経営の裕福な一家に生まれ、幼少の頃から生涯の友であるレスターをしのぎを削って頭角を現してきた。父親をタイタニック号の沈没事故で失い、母親のアンは実業家のヘンリー・オズボーンと再婚するが、ケインは一家の資産を狙うヘンリーに対して嫌悪感を示し続ける。

 他方、アベルポーランドの貧しい狩猟一家に拾われ育てられる。やがて異彩を発揮するようになり、姉のように育ててくれてきたフロレンティナとともにロマノフスキ男爵の家に引き取られるが、やがてポーランドがロシアに攻め込まれ、その後ドイツが侵攻してくると、男爵は殺され、フロレンティナはドイツ兵によって残虐に殺される。そしてアベルは自分がロマノフスキ家の実子であることを知る。

 アベルはドイツによってソ連によって強制収容所に送られ、厳しい境遇に置かれるが、巧く脱出し、アメリカに渡ることに成功する。そこでホテルのウェイターとして働くが、その能力がホテル経営者のデーヴィス・リロイの目にとまり、ホテル経営の道を歩み始める。

 やがてリロイのホテル経営は窮地に陥ったが、ケインの銀行はリロイを助けようとせず、リロイは自殺を図る。その後のホテル経営を引き継ぐことになったアベルは、ケインに対する強烈な敵意を抱くようになり、ケインの銀行経営を阻害することを試みる。さらにアベルは、ケインの仇敵でもあるヘンリー・オズボーンを自社の取締役に付け、徹底的にケインに対する報復を誓う。

 アベルのホテル経営は次々と拡大されていく。しかし、そこで問題が起こる。アベルの娘フロレンティナ(義姉の名前に由来する)が、ケインの息子であるリチャードと恋に落ちてしまったのだ。二人の父親はいずれもこの結婚に反対し、親子関係は途絶えてしまった。フロレンティナとリチャードは2人で独立して事業を興し、順調に拡大をしていった。

 アベルはアメリカのポーランド人コミュニティを代表する地位にまで上り詰めていたが、ヘンリー・オズボーンが、アベルが政府高官に贈賄工作していたという情報を誰かに流し、それが司法省にわたっていたことから、逮捕される。やがてアベルは釈放されるが、この一連の事件の糸を引いているのはケインであると考え、アベルに対する復讐を完結させることを誓う。

 アベルはついにケインの銀行の株の一定数の買い取りに成功し、ケインを銀行経営から追放することに成功する。アベルはついに長年の目的を達成したものの、達成感を感じることはできない。2人とも愛する子供との関係が途絶えてしまっており、孫たちとも会えない状況が続いていた。

 フロレンティナの店の開店披露パーティーに2人はひっそりと参加する。偶然2人はすれ違ったが、軽く会釈するのみだった。その後、ケインはフロレンティナとリチャード夫妻とその子供たちと夢の会食をする機会を得たが、会場のホテルでケインはひっそりと息絶えていた。

 ケインが亡くなった後、アベルはある真相を知ることになる。それは、アベルの銀行経営を助けたのは外ならぬケインであったという事実であった。ケインは信託証書において投資を知らせてはならないという条項を根拠にそれをアベルに伝えようとしなかったということであった。アベルはこの真相を知り、心から後悔の念に苛まれる。

 やがてアベルは亡くなり、遺産はフロレンティナに継承されるが、一つだけ例外として、ロマノフスキ家を示す銀の腕輪だけは孫息子のウィリアムに譲り渡されたのだった。。。


 境遇の全く違う2人のストーリーがやがて結び付けられていくという構成はジェフリー・アーチャーの作品でよく見られる構成ですが、ポーランドの貧しい移民であるアベルがホテル経営者にまで上り詰めて、歴代銀行一家の継承者と堂々と張り合うというストーリーは、アメリカ社会の自由や多様性、寛容性を巧く著しています。

 そして、最後のアベルが真実を知るシーンは、とても切なさを感じてしまいます。ケインに復讐することがアベルにとって最大の人生の課題であったはずであるのに、実はケインは自分にとって敵ではなかったことを、ようやく晩年になって知ることになるわけですが、人生とはそんなものなのかもしれません。

 激動の時代を背景に世界を跨ぐ作品を生み出せるジェフリー・アーチャーの力量にただただ感服してしまいます。