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白石隆 ハウ・カロライン「中国は東アジアをどう変えるか」

中国は東アジアをどう変えるか ? 21世紀の新地域システム (中公新書 2172)

中国は東アジアをどう変えるか ? 21世紀の新地域システム (中公新書 2172)

 中国の台頭がアジア地域をどのように変えていくかについて論じた本です。
 著者の主張を一言で言えば、中国の台頭は東アジアにおける米国主導の安全保障システムと中国を含む経済システムとの間に構造的な緊張関係をもたらすものの、東アジアの国々が中国になびくようなことは起こらないのではないか、といったところでしょうか。

 もともと東アジアの地域システムは、戦後、米国のヘゲモニーの下で共産主義の封じ込めに向けて構築され、経済的には日米と東南アジア諸国との間の三角貿易の体制が構築されてきましたが、そこに中国が経済システムの中に入り込んできたわけです。他方、安全保障システムは中国抜きの形で構築されてきましたので、ここに安全保障システムと経済システムとの間に緊張関係をもたらされるようになったというわけです。

 経済システムの中に入ってきた中国は、東南アジアの国々との間でハブ&スポーク・システムを構築していきます。南シナ海においても領土問題を引き起こします。こうした中、米国が東アジアに積極的に関与するようになります。これは、中国台頭のリスクを米国の関与でヘッジしようとする動きを反映したものでもあります。

 こうした動きの中で、東アジア諸国の反応は様々です。タイは日米と連携しつつ中国から多くの利益を引きだそうとしており、中国の台頭を大いに歓迎しています。インドネシアでは中国を脅威とみる見方が広がっています。ヴェトナムは中国と日本とのバランスをうまく取ります。ミャンマーは経済的孤立の中で中国との関係を深めてきましたが、近年は日米とも関係を深めつつあります。このように、中国の台頭に伴い、東南アジア各国は中国になびくという状況にはなく、むしろ依存しすぎないようにしながら使えるものは使っていこうという姿勢を取っているわけです。


 本書のもう一つの主張は、アングロ・チャイニーズの台頭です。中国の台頭の中で、東南アジアにおいてはチャイニーズであることがファッションあるいは流行となっていると著者は指摘します。このチャイニーズの存在はハイブリッドであり、文脈によって多様な意味を持ちますが、そのハイブリッド化を媒体したのが日本語と英語でした。第二次大戦後はとくに英語を使う人びとが台頭しています。こうした現状を見ると、中国が台頭したとしても東南アジアのチャイニーズが大陸のチャイニーズのようになることはあり得ず、これからもチャイニーズはハイブリッドな存在で有り続けるというのが著者の主張です。


 まぁ要するに、本書では中国の台頭によって地域システムの変容はあるものの、それはかつての中国を中心とする朝貢貿易のようなシステムの方向に向かうのではないのだ、ということを主張していると言えます。こうした帰結を導くために、本書ではかつての歴史を振り返ったりしているのですが、この辺りの記述は少し冗長だったかなという気がしなくもありません。

 いずれにしても、今アジアの地域システムが変貌しつつあることは間違いなく、その方向性を見極める上で本書が一助となることは確かです。