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東アジア情勢の混乱と新たな動き

 竹島尖閣諸島を巡って東アジア情勢が紛糾しています。とりわけ、韓国との関係は近年韓流ブームを通じて草の根的な文化交流が深まってきており、これまでにない良好な関係が進展してきただけに、今回の韓国大統領の竹島訪問は大変残念な行為ですし、さらに天皇陛下の謝罪要求までしてしまったことで、日本人にとっては看過できない状況をもたらしてしまいました。

 通常であれば、こういう政治的に緊張した時期こそ、韓流のような文化的な交流が威力を発揮するはずなのですが、韓国の韓流スターたちは、韓国国内で領土問題に積極的に言及するなど、文化交流に政治を持ち込んでしまっていますので、政治の緊張が草の根の交流にも持ち込まれてしまわざるを得ません。日本の芸能界では芸能人が政治問題に言及することは一般的に憚られている風潮がありますが、韓流スターたちも政治への言及を避けておけば、文化交流まで冷え込むことはなかったと思います。竹島まで遠泳した韓流スターの今後の入国は難しくなると外務副大臣が発言されていましたが、これはやむを得ないでしょう。文化交流の在り方を根本から考えさせられる状況です。

 竹島に関して日本政府が国際司法裁判所への提訴を提案していることは自然な対応ですし、竹島を巡る問題の存在自体を国際世論に知らしめることは日本にとってはメリットとなります。竹島実効支配している韓国がなぜこのタイミングで竹島に上陸するという行為に出たのかは大変不可解としか言いようがなく、しかも天皇陛下を侮辱するような発言をしたことに対しては、毅然とした対応をとるべきでしょう。

 ただ、長期的視点に立てば、韓国には韓国として竹島問題で引くに引けない状況が出来てしまっていることも事実です。ここまで竹島問題を国民に教育的に煽ってしまってきているのですからなおさらです。日本も当然竹島問題では引くことはできません。つまり、竹島の問題を解決しようという試みはそう簡単ではないこともこれまた事実なのです。領土問題は領土問題で政府レベルで互いの主張をぶつけ合ったとしても、それ以外の分野では交流を深めていく知恵が必要なわけです。これまでの日韓関係はそれが比較的うまく行っていたのですが、それを今回の韓国大統領の一連の行動や言動がぶち壊してしまったということでしょう。本来こうした政治問題が経済面や文化面に波及することは避けるべきと言いたいところですが、やはり天皇陛下の謝罪要求までされてしまうと、通貨スワップ協定などへの影響は避けられないでしょう。

 現状を見る限り、韓国大統領が交代したタイミングで日韓関係を再構築していくしかもはや方策はないように思います。


 一方、尖閣諸島に関しては、日本が実効支配しているわけですから、日本としてはこの問題は極力ローキーにとどめておく必要があるように思います。先般、香港の活動家が尖閣に上陸しましたが、日本の警察官によって逮捕され、日本の警察権が及んでいることを国際社会にもせいっかりアピールできたわけですから、これ以上この問題をマスコミも取り上げることは得策ではありません。むしろ活動家たちはマスコミへのアピールを狙って上陸を試みたわけですから、これをマスコミが取り上げれば取り上げるほど、相手の術中にはまることになります。今回の件で中国全土でデモが起こっていると報道されていますが、中国の人口からすればほんのわずかな人びとがデモをしているに過ぎず、大きく取り上げるべきほどの話題ではありません。大半の中国人たちは尖閣諸島の問題にそれほどの関心がないとみて良いでしょう。

 今回の件で、中国政府は比較的冷静を保っているように見受けられます。それは、日中の経済面での深まりにかんがみ、尖閣諸島問題を過剰に問題化させることは得策ではないと判断したのでしょう。韓国の反応と比べると中国のスタンスにある程度の成熟さを感じてしまいます。

 さて、こうした中国・韓国との間の領土を巡る問題の裏で興味深い動きがあります。それは金総書記の専属料理人だった藤本健二氏が訪朝したことです。この件はニューヨーク・タイムズでも取り上げられています。
http://www.nytimes.com/2012/08/25/world/asia/kim-family-chefs-redemption-suggests-a-softening-north-korea.html?_r=1&ref=asia

 産経新聞の記事によれば、訪朝に当たっては綿密な身辺調査が行われたようです。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/120823/waf12082307550004-n1.htm

 ニューヨーク・タイムズの記事によれば、藤本氏は平壌の街で、店に食料品が溢れ、ラーメン店には人が溢れ、携帯電話に溢れている光景を目の当たりにしたようです。雰囲気も明るくなっているようです。これはあくまで平壌の一部の光景に過ぎませんが、いずれにしても平壌の光景が変わりつつあるのはある程度事実でしょう。

 北朝鮮から逃亡した専属料理人を呼び寄せ、しかも何度でも訪れて良いというメッセージを発した金正恩第1書記の姿勢がいかなるメッセージを持つものかは注目に値するでしょう。海外で教育を受けた経験もあるという金正恩第1書記の開明的な姿勢に期待したいものです。拉致問題で少しでも進展があり日朝関係が前進すれば、日韓関係ももっと成熟したものとなるかもしれません。


 領土絡みで緊張が高まる一方、新たな動きも見られる東アジア情勢から今、目が離せません。