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「狂った果実」★★★★☆

日活100周年邦画クラシック GREAT20 狂った果実 HDリマスター版 [DVD]

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 石原慎太郎原作で1956年に製作された作品です。製作された時代背景を重ね合わせると、いろいろな意味で考えさせられます。

 湘南の海でヨット遊びに耽る若者たち。そんな中に、滝島夏久(石原裕次郎)と春次(津川雅彦)の若い兄弟がいた。兄弟は逗子駅で見知らぬ美女の恵梨(北原三枝)とすれ違うが、その後、ボートに乗っている際に、海を泳いでいる恵梨と再び遭遇する。

 弟の春次は恵梨に思いを寄せ、パーティー会場にも恵梨を連れてくる。恵梨自身も春次に思いを寄せていたのだったが、兄の夏久は強引に恵梨を口説き、自分の女にしようとする。しかも、恵梨には春次に明かしていない秘密があった。実は外人と結婚している身であったのだ。恵梨は強引に迫ってくる夏久を断ることができない。

 ある日、春次とデートの約束をしていた恵梨から速達が届き、そこにはデートを1日早めてほしいとの伝言があった。その手紙を見た夏久はその伝言を春次に伝えず、自分がデートの場に現れた。夏久は強引に恵梨をヨットに連れ込み、2人は一晩中ヨットで放浪する。

 後でその伝言を見つけた春次は必死の形相で2人を追いかけ、海岸からボートに飛び乗る。そして、海上を放浪する2人を発見した。春次は2人が乗るヨットの周りを執拗にボートで旋回し、やがて海上を泳ぐ恵梨に向かってボートは突進し、夏久が乗るボートをも破壊し、去っていったのだった。。。


 この作品が製作された時代は正に高度成長が始まりつつあった時期です。1960年代に入ると、時代はレジャーブームに突入するのですが、そんなレジャーブームをお膳立てするような意識の変革があったのがこの時期です。戦後間もない頃は多くの人々が食糧難に陥っていたわけですが、それからわずか15年も経っていないこの時期に、早くも一部の若者たちの間には欧米的な消費意識が醸成されていたことは大いに注目されます。

 さて、この作品を見ると気がつくのは、フランスのヌーヴェルヴァーグのと共通性でしょう。かったるい音楽が流れる中で淡々と物語が進行し、最後は意表を突いてあっけなくセンセーショナルなエンディングを迎える構成は、通常の映画の構成とは大きく異なります。

 この作品は現にフランスでも上映され、トリュフォー監督らが絶賛しており、ヌーヴェルヴァーグに多大な影響を与えた作品とされているようです。当時の日本映画の作品としてのクオリティの高さを窺わせるエピソードでしょう。

 それにしても、この作品のエンディングのインパクトは強烈です。津川雅彦が鬼気迫る表情でボートでヨットの周りをぐるぐる旋回するシーンは、夢に出て来そうな迫力です。

 50年以上経過した現在見ても全く色あせていない作品です。