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「J・エドガー」★★★★☆

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 8代の大統領にFBI長官として仕え、その職に48年間!とどまるという異色の経歴を持つ人物を取り上げた作品です。さすがクリント・イーストウッド監督の作品で、観る者を飽きさせずに惹き付ける構成となっています。レオナルド・デカプリオも、エドガーの若き日から老年までを多彩に演じています。

 この作品では、老年期のエドガーが、自らの伝記を書かせるための口述筆記をさせている場面と、若き日の場面とが交互に展開されていきます。

 エドガーはもともと、アメリカ議会図書館で蔵書をシステマティックに整理した経験から、司法省に入ると、共産主義者の経歴や指紋などをデータベース化して整理することに執心します。そして、アメリカの英雄リンドバーグの子供が誘拐して殺害された事件などで、自らの武勇伝をねつ造していく様が描かれています。

 エドガーにはクライド・トルソンという右腕がいたのですが、この作品では、トルソンがエドガーのゲイの相手だったとされています。エドガーがゲイだったかどうかについては定かではないようですが、少なくともこの作品では、エドガーのゲイという特質が大きくクローズアップされています。

 そしてこの作品で強調されているのは、エドガーの孤独さです。母親を愛し、生涯独り身で過ごしたエドガーは、華々しい経歴とは裏腹に孤独な人物であり、人一倍猜疑心の強い人物として描かれています。歴代アメリカ大統領が彼を切れなかったのは、そうした猜疑心から収集した数々の機密情報の存在があったようです。ニクソン大統領はエドガーの死後、彼の極秘データーベースを捜索しましたが、彼を古くから支えてきた秘書のガンディーが、その多くを廃棄してしまったようです。

 このように、本作品は、FBIとエドガーの闇の側面を大きくフィーチャーしています。その真偽のほどは分かりませんが、アメリカ社会であればこういう闇があってもおかしくないなと思わせるほどの迫力はあります。この辺がイーストウッド監督の巧さでしょう。

 そもそも、同一人物が警察組織のトップとして48年間も君臨し続けること自体、絶対に考えられません。ある意味では、日本の警察組織はアメリカよりも健全であるということなのでしょうが、アメリカ社会の奥深さの一つの象徴でもあるのかもしれません。サスペンスの題材としては、圧倒的にアメリカ社会の方が面白いテーマを提供してくれます。こういう作品を見ると、アメリカ社会に対する好奇心がますます助長されてしまいます。

 公開初日に鑑賞しましたが、大変スリリングで面白い作品でした。