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映画、書評、ジャズなど

マーティン・ブース「暗闇の蝶」

文学 ミステリー

暗闇の蝶 (新潮文庫)

暗闇の蝶 (新潮文庫)

 もともとは「影なき紳士」、近時の映画化では「ラスト・ターゲット」というタイトルでしたが、今回の新訳では「暗闇の蝶」というタイトルになっています。原題は“A VERY PRIVATE GENTLEMAN”です。

 主人公はイタリアの山深い町に潜んで銃の密造を生業とする男。彼は、周囲には蝶の絵を描く画家として通っておりミスター・バタフライと呼ばれていたが、裏の顔は世界中の暗殺者からの依頼で精巧な銃を製造することだった。孤独でありながら、教会の神父や様々な連中に囲まれ、娼婦として稼いでいる女子学生クレアとの肉体関係は次第に恋愛へと発展していく。こうした中、銃密造から足を洗ってクレアと共に穏やかに暮らしていこうと考えるようになり、ある女からの依頼を最後に銃密造から手を引こうとしていた。

 しかし、町には<影の住人>が彼を尾行し付きまとっていた。その目的ははっきりしないが、彼の命を狙っている可能性も大いにあった。

 彼は女から引き受けた最後の仕事をきっちりこなし、銃を女に引き渡した。その後、いよいよ<影の住人>と対峙する時が来た。広場で唐突に彼に向かって銃を撃ってきたのだ。彼は銃で応戦し、敵は命を落とした。その男が持っていた銃は、彼が最後の仕事として製造した銃だった。

 こうして彼は、もう町にはいられなくなり、クレアを置いて町を去っていったのだった。。。


 この物語は、主人公が淡々と告白するようなスタイルで進行していきます。その内容は実に教養に満ちており、奥深いものばかりですし、<影の住人>に付きまとわれながら、巧妙に煙に巻いていくストーリーは緊張感が張りつめています。ただ、全体的に話のドラスティックな進展が少ないので、読み進めるのにややエネルギーを要します。

 それにしても、強いポリシーを抱きながら世間から離れたところで孤独を好んでひっそりと生活をしている人物像には強い魅力が潜んでいます。映画化ではジョージ・クルーニーが主人公を務めているようですが、イメージとピッタリです。

 情景が目に浮かぶようなイタリアの高地というシチュエーションや、世間に背を向ける人間の持つ独特の美学に大いに惹かれるミステリーです。