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寺田寅彦「津浪と人間」

思想

寺田寅彦 津浪と人間

 寺田寅彦のエッセイは以前も「日本人の自然観」を紹介しましたが、この「津浪と人間」と題するエッセイは、今回の震災にもっとストレートに当てはまる分析です。

 昭和8年の三陸津波の際に書かれたエッセイですが、今回の東日本大震災における津波の被害を予測しているかのような分析に呆気にとられてしまいます。

「こんなに度々繰返される自然現象ならば、当該地方の住民は、とうの昔に何かしら相当な対策を考えてこれに備え、災害を未然に防ぐことが出来ていてもよさそうに思われる。これは、この際誰しもそう思うことであろうが、それが実際はなかなかそうならないというのがこの人間界の人間的自然現象であるように見える。」

 自然現象がたびたび繰り返され、未然に被害を防ぐことができそうであるにもかかわらず、実際はそうなっていないという指摘です。その理由は、自然現象が起こってから何年も経つと、人も変わり忘れられてしまうからというわけです。

 だから、災害を防ぐためには、次のような処方箋が提案されます。

「こういう災害を防ぐには、人間の寿命を十倍か百倍に延ばすか、ただしは地震津浪の週期を十分の一か百分の一に縮めるかすればよい。そうすれば災害はもはや災害でなく五風十雨の亜類となってしまうであろう。しかしそれが出来ない相談であるとすれば、残る唯一の方法は人間がもう少し過去の記録を忘れないように努力するより外はないであろう。」

 今回の津波でも、平素からの学校での訓練の重要性が指摘されていますが、この点についても、以下のように指摘されています。

「それで日本国民のこれら災害に関する科学知識の水準をずっと高めることが出来れば、その時にはじめて天災の予防が可能になるであろうと思われる。この水準を高めるには何よりも先ず、普通教育で、もっと立入った地震津浪の知識を授ける必要がある。」

 寺田寅彦の思想は、今回の震災後に急速に見直されているような気がしますが、これからもっともっと注目されてよいかもしれません。