- 作者: バリーアイスラー,池田真紀子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/03/31
- メディア: 文庫
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アイスラーは1964年生まれ、CIAの戦略スタッフとしてトレーニングを受けた経歴を持っており、日本にも数年滞在したことがあるため日本語にも堪能です。
この物語の舞台は東京。依頼を受けて殺害を請け負う殺し屋ジョン・レインは、アメリカ人の母と日本人の父を持つ。母親は占領軍の一員として日本で働いていたときに、吉田首相の補佐官を務めていた父親と知り合い結婚したが、父はジョン・レインが幼少の頃に右翼に殺害された。その後、母子はアメリカに渡るが、アイデンティティを見出すために、ジョン・レインはベトナム戦争に志願したのだった。
ジョン・レインはベニーという民自党の党員の依頼を受けて、川村という国土交通省事務次官を心臓発作に見せかけて殺害する。しかし、川村が倒れた際にそのポケットをまさぐっていた男がいた。
ジョン・レインはなじみの店である六本木のアルフィーにジャズの演奏を聴きに行ったが、そこで演奏していたのは川村の娘のみどりだった。オーナーによってみどりに引き合わされたジョン・レインはみどりに惹かれる。みどりもジョン・レインに惹かれる、自分の父親が彼に殺されたことを知らずに。
川村は殺されたとき、政権がひっくり返るような機密情報が入ったディスクを持っていた。そして、それが今みどりの手に渡ったと考えられたため、信念党の党首山岡やフォーブス誌の東京支局長ブルフィンチらがみどりを追っていた。
ジョン・レインは追っ手からみどりをかくまっていたが、ジョン・レインの命も執拗に狙われる。そしてジョン・レインは、川村が殺された日にディスクを道玄坂のある店に隠していたことを見抜き、これを手に入れた。ジョン・レインを追う手はますます激しくなり、信念党の本部にも連れ込まれたが、間一髪のところで脱出に成功する。
ジョン・レインはこのディスクをブルフィンチに渡して世間に暴露してもらうことが最善と考え、ブルフィンチにこれを手渡したが、彼は直後に殺されてしまい、ディスクはCIAの手に渡った。
ジョン・レインはディスクを取り返すべく横須賀基地に向かい、結局、このディスクは警視庁の旧知の友人タツの手に渡った。ジョン・レインはこのときの行為が原因で逮捕・拘留されるが、タツの手によって釈放される。
ジョン・レインが釈放されたとき、みどりは命の危険から逃れるためにすでに日本を離れ、アメリカに渡って活動していた。ジョン・レインはみどりの父親を殺している手前、これ以上みどりに執着するのをあきらめ、アメリカに渡って密かにみどりのライブを鑑賞したのだった・・・。
アメリカ人のアイスラーがこれだけ緻密な描写で東京の街を舞台にしたサスペンスを描いたことには頭が下がります。特に、六本木のアルフィーが舞台として登場する辺りのセンスは抜群です。
ただ苦言を呈すれば、川村が持っていたディスクの重要性がいまいち伝わってこなかったことが、物語全体のリアリティを損ねていたような気もします。そもそも、国土交通省の事務次官が、政権を転覆できるような情報を持っていたという設定は、政府内部にいる人間としてはいまいち説得力がありません。物語を読み進めていくうちにこの情報の中身が何かがはっきりしてくることを期待していたのですが、この点は明らかにされず、少々失望しました。
ただ、これだけ日本に理解の深いアメリカ人作家が登場したということは、それだけでも歓迎すべきことです。他の作品にも今後手を出していきたいと思いました。