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「鳥」★★★★☆

鳥 [DVD]

鳥 [DVD]

 この作品は、今まで見たくてもなかなか見る機会がなかった映画のひとつだったのですが、今回ようやく鑑賞することができました。1963年に制作された映画とは思えないほどの迫力で、ヒッチコックの数々の作品の中で、最も脳裏に焼き付けられた作品です。

 ある大新聞社の娘であるメラニー・ダニエルズ(ティッピー・ヘドレン)は、小鳥を売っている店で娘のために「愛の鳥」(Love Birds)を探していた弁護士のブレナー(ロッド・テイラー)と出会う。メラニーは彼の車のナンバーを頼りに、サンフランシスコの北方に位置するボデガ湾に向かい、こっそりと「愛の鳥」を届けたのだが、帰りのボートを漕いでいたときに、カモメに頭を突かれ出血する。それが全ての始まりだった。

 その後、鳥にまつわる奇怪な現象が次々に起こる。メラニーがブレナー家で食事をとっていると、突然、雀の大群が煙突を通じて部屋の中に入り込んできた。鳥が人を襲って殺したと思われる変死事件も起こる。ブレナーの娘の学校では、大量のカラスが校舎を覆い、逃げ出した生徒たちを次々に襲った。さらに、カモメの大群がガソリンスタンドを襲ったことから火事が発生し、街中はパニック状態に陥ってしまう。

 こうした奇怪な現象は、メラニーがこの町にやって来てから起こったことから、メラニーは町の人々からこうした奇怪な現象をもたらした原因ではないかと疑いをかけられる。

 ブレナー家には刻々と鳥の大群が迫っていた。そして、ついにカモメの大群がブレナー家を襲う。上の階に様子を見に行ったメラニーは、カモメの襲撃を受けてしまう。

 ブレナーたちは、カモメに占拠された町を車で後にする・・・。


 メイキングの中である人がこの映画について

“日常に潜む恐怖”

と表現していましたが、この映画の特徴を端的に表現しています。身近な鳥が人を襲うなどとは普通は考えられませんが、それが実際に起こってしまったら、おそらくとてつもない恐怖感を味わうこととなるでしょう。この作品は、そんな「もしも」を圧倒的なリアルさをもって映像化したものであり、その恐怖といったら並大抵のものではありません。

 この映画を見て誰しもが思うのは、一体、この時代にどうやってこんなリアルな映像を撮ったのだろうということではないでしょうか。

 その答えは、DVDに付いているメイキングの中で語られています。

 ヒッチコックは、この作品の着想を「レベッカ」を書いたダフネ・デュ・モーリアの作品から得ていますが、その映画化の可能性を周囲に探りますが、ちょうどその頃ディズニーが最新の合成技術を開発しており、この技術を使えば、従来の合成技術ではなかなか防げなかった縁が青く浮き上がってしまうという現象を解消することが可能となったため、その技術を活用して大量の鳥の合成映像がうまく表現できることとなったようです。

 とはいえ、すべての鳥の映像が合成というわけではなく、中には、偽物の鳥を使った場面、本物の鳥を使った場面もあるようです。例えば、ブレナー家に大量の雀が飛び込んでくる場面は、当初、実際の雀を使って試みられたようですが、雀が期待通りには飛び回らなかったことから、やむなく合成を使ったとのことです。また、最初にメラニーの頭をカモメが突く場面は、模型の鳥を使って撮影されていたり、海辺で遊ぶブレナーの娘にカモメが襲いかかる場面は調教されたカモメのくちばしや爪をしばった上で撮影されているようです(その後、調教されたカモメは海の方に飛んでいってしまい、しばらく戻ってこなかったようです。)。

 ラストシーンの、大量のカモメなどの鳥で埋め尽くされた景色の不気味さは、大変印象的ですが、この場面も、限られた数の鳥を使って撮影しなければならないため、画面を相当数に分割して、ばらばらに撮影されたものを一つの画面に構成しているようです。

 このラストシーンの背後の光景が何とも美しいのですが、実は、この映画に用いられている多くの背景は、絵が使われているのです。たびたび登場するボデガ湾の美しい背景は、実は写真より写実的な絵が使われていたのです。

 このように、この作品には、数々の特殊撮影が施されており、それが非常に映画のリアルさの演出に効果を発揮しており、ヒッチコック監督の手腕に脱帽していまします。

 見た人誰しもの脳裏にしっかりと映像が焼き付けられるような印象的な映画でした。