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映画、書評、ジャズなど

指揮者バレンボイム氏にパレスチナの名誉市民権

文化 ジャズ

http://www.danielbarenboim.com/index.html
 今日の朝日新聞に次のような記事が掲載されていました。
指揮者バレンボイム氏に名誉市民権 パレスチナ自治政府

 イスラエルパレスチナの和平に取り組む国際的な指揮者兼ピアニストのダニエル・バレンボイム氏(65)にこのほど、パレスチナ自治政府から名誉の「市民権」と「パスポート」が贈られた。

 アルゼンチン生まれのユダヤ人でイスラエル国籍の同氏は12日、市民権授与が発表されたパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のラマラで「イスラエルパレスチナの人々の運命はつながっている。私が市民権を得られるのは、共存が可能だということを示している」と述べた。

 同氏はパレスチナ出身の思想家、故エドワード・サイード氏との出会いをきっかけに、アラブとイスラエルの若者の混成オーケストラを99年に結成した。「相手の言葉に耳を傾けなければならない。互いへの無知こそが、平和を遠ざける」というのが持論。ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)のヒトラーが愛好したワグナーの作品を01年にイスラエルで演奏するなど、タブーの打破も試みている。

 04年には、世界的な貢献を認めるイスラエルの「ウルフ賞」を贈られた際の記念演説で「(ホロコーストなど)抑圧に満ちた歴史を持つユダヤ人が、隣人の苦難に無関心でいられるのか」とパレスチナ占領を批判し、イスラエル政府を困惑させた。

 パレスチナ国家に反対するイスラエルの右派からは目の敵にされ、「イスラエルの市民権を取り上げろ」と叫ぶ国会議員も出ている。


 バレンボイムは、アルゼンチン出身のユダヤ人で1942年生まれ、イスラエルの国籍を持った方です。早くからピアニストとしての才能が現れ、現在は主に指揮者として活躍していますが、クラシックのみならず、ブラジル音楽やジャズの分野などでもレコーディングを行うなど、大変多岐なジャンルでその才能を発揮しています。

 この方はもちろんただの音楽家ではありません。その発する強烈な政治的・思想的メッセージこそが注目すべき点です。とりわけ、『オリエンタリズム』を著した故エドワード・サイードとの親交がよく知られています。また、バレンボイムは、父親の影響で、スピノザの思想に大いに影響を受けていることを告白しています。

 バレンボイムの活動として有名なものは、“The West-Eastern Divian”というオーケストラを組織したことです。このオーケストラには、イスラエルパレスチナ、その他のアラブ諸国からの音楽家たちが一堂に会しているのです。

 それから、バレンボイムは、ユダヤ人からは悪名高いワーグナーを高く評価しており、イェルサレムの音楽祭でワーグナーを演奏したことが有名です。この件でバレンボイムは、一部のイスラエル人から強烈な非難を浴びることになります。

 バレンボイムは決して思いつきの政治的パフォーマンスをしているわけではありません。彼が深い思想的バックボーンに基づいて行動していることは、バレンボイムの公式サイトを見ればはっきりと分かります。

 例えば、“The Power of Music: Europe’s commitment in the Middle East and in the world ”と題された論考でバレンボイムは、“Culture”の意義について強調しています。

In times of totalitarian or autocratic rule, artists have been able to remain uncompromising in their art under otherwise very restrictive circumstances. Culture, in this context, has often been the only avenue of independent thought. It is the only way people can meet as equals and exchange ideas freely. Culture then becomes primarily the voice of the oppressed and takes over from politics as a driving force for change. Often, in societies suffering from political oppression, or from a vacuum in leadership, culture takes a dynamic lead.

 バレンボイムは、冷戦崩壊後の米国一国支配構造において、<文化>こそが独立した思考への道筋であり、抑圧された者の声となりうるのだと考え、<文化>の持つ力に大きな期待をかけているのです。

 そして、音楽こそが人々の間の相互理解を深める対話手段であると考え、先に触れたThe West-Eastern Divian Orchestra”の活動もそうした試みの一環なのです。

 こうしたバレンボイムの活動は、世界的にも高く評価されており、各国から表彰を受けています。我が国でも、2007年の高松宮殿下記念世界文化賞を音楽部門で受賞しています。

 世界的に大きな影響力を持つ思想家が少なくなっている今日、バレンボイムの活動から目が離せなさそうです。

 ちなみに、実は私はバレンボイムのクラシックをまだ聴いたことがないのですが、「Brazilian Rhapsody」「Tribute To Ellington」などジャズ系の作品はいずれも素晴らしいので、是非聴かれることをお勧めします。

Brazilian Rhapsody

Brazilian Rhapsody

トリビュートtoエリントン

トリビュートtoエリントン