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映画、書評、ジャズなど

「80日間世界一周」★★★★

80日間世界一周 スペシャル・エディション [DVD]

80日間世界一周 スペシャル・エディション [DVD]

 時代はヴィクトリア朝時代の1872年、イギリスは世界中に植民地を持ち絶頂期を迎えていた頃、イギリス紳士フォッダ(デイヴィッド・ニーヴン)は高級会員制クラブで、80日間で世界一週できると主張する。当時、まだ飛行機が交通手段ではなかった時代、他の会員たちは、80日間で世界一周などできるわけないと反論し、フォッダは自分が80日間で世界一周してみせると言って、全財産を賭けて世界一周の旅に出発してしまう。お供についたのは、旅の出発の前日に雇われたパスパルトゥー(カンティンフラス)。2人は気球でスペインへ渡り、スエズ運河、そしてインドへとたどり着く。インドでは、地元民たちが夫を亡くした妻ウアダ姫を生け贄にしようとしていたところに出くわし、フォッダとパスパルトーは生け贄の直前にその妻を救出し、以後、ウアダ姫も世界一周の旅に同行することになる。

 その後、一行は、香港や日本も経由して、大統領選挙の真っ最中のサンフランシスコに渡る。そして、鉄道で大陸を横断してニューヨークへ。途中、アメリカ原住民の襲撃を受けたりするが、何とかニューヨークにたどり着く。

 ところが、フォッダに銀行強盗の嫌疑がかけられ、フォッダは一時拘束されてしまう。その後、嫌疑が晴れて一行は遅れて出発するが、既に80日の期限は越えることは確実だと思われた。肩を落とした一行は、全財産を失うこと絶望しつつフォッダの邸宅にたどり着く。フォッダはインドから連れてきたウアダ姫と結婚することを決め、挙式しようとしたその時、パスパルトーゥはあることに気が付く。東回りに世界一周をして日付変更線を超えたのだから、一行は1日分得をしていたのだ。あわてて一行は自由クラブへと飛んでいく・・・。

 この映画は1956年度のアカデミー賞受賞作なのですが、今では考えられないくらいにオリエンタリズムの眼差しがたっぷり盛り込まれています。インドでは原住民たちの生け贄の儀式が繰り広げられ、アメリカでも原住民たちが意味もなく列車を攻撃してくる。白人たちがアメリカの原住民たちを銃で手当たり次第殺害しておきながら、身内の1人が誘拐されると、あいつらは野蛮だとか、人の命は大事だとか言って、列車の予定を遅らせて救出に向かう。欧米人のエゴイズムも現れています。

 ただ、一つ興味深かった点は、アメリカの大統領選挙の様子の描き方です。この映画の監督マイケル・アンダーソンはイギリス人ですが、アメリカ大統領選挙どんちゃん騒ぎを見たパスパルトゥーは

宗教的なお祭り?」

と尋ねます。
 フォッダもパスパルトゥーに対して

「現地の者ともめるな」

と注意します。

 このアメリカに対する眼差しは、他のアジア地域への眼差しとあまり変わりがなく、アメリカ人たちをも野蛮な人々として捉える視線が感じられます。これは、監督のアメリカ社会に対する痛烈な皮肉とも受け取れるでしょう。

 日本の描き方については、特に悪気のようなものは感じられません。横浜に到着して鎌倉大仏の前で果物を恵んでもらったり、歌舞伎に紛れてパスパルトゥーが舞台の上で演じているところに、フォッダが見物に来るなど、支離滅裂ではありますが、まぁそれなりに面白く描かれているといった感じです。

 この映画の良さは、なんと言っても、いろんな地域の映像が登場し、見ている側も短時間の間に世界旅行をしたかのようなわくわくした気分に浸れるという点です。あまりうがったことを考えずに見る分には、十分過ぎるほど楽しめます。この映画の背景となっている20世紀後半は、トーマス・クックなどによってようやくマス・ツーリズムが登場し、庶民が旅行に出かける習慣がヨーロッパで浸透してきた時代ですが、これだけ長期間の旅行に行くということは、やはり有閑階級の特権だったわけです。現代人にとってもこんな旅行はおよそ不可能であり、こんな旅行を楽しむことができたかつての有閑階級が単純にうらやましいと感じてしまいます。

 そして、最後に音楽。「アラウンド・ザ・ワールド」がこの映画の雰囲気を格段に盛り上げてくれます。