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「北北西に進路を取れ」★★★★★

北北西に進路を取れ 特別版 [DVD]

北北西に進路を取れ 特別版 [DVD]

 ヒッチコック作品の最高峰とも言われる代表作です。誰もいない平原で飛行機に狙われるシーンや、大統領の顔が刻まれたラシュモア山での格闘シーンの迫力については、もう何も言うことがありません。素晴らしいの一言です。

 広告会社の社長を務めるロジャー(ケーリー・グラント)は、ある日突然、カプランという男と間違われて誘拐され、タウンゼントという名の人物の屋敷に連れて行かれて詰問される。ロジャーは大量の酒を飲まされ、酒酔い運転で崖から転落したかのように偽装させられそうになるが、泥酔状態で運転しているところを警察に逮捕される。警察は、殺されかけたというロジャーの供述を信用しなかったため、ロジャーは、国連本部で演説をすることになっていたタウンゼント氏に会いに行ったが、その人物は、ロジャーが屋敷であった人物とは別人だった。タウンゼント氏はその場で何物かに背中を刺されて死ぬが、それがロジャーの仕業として新聞で大きく取り上げられた。

 ロジャーは自らの潔白を証明するため、自分が間違われたカプランの後を追って、列車でシカゴへ向かう。その列車には、金髪美女のケンドル(エヴァ・マリー・セイント)が乗っていた。ケンドルはロジャーが指名手配犯であることを知りつつ、ロジャーを誘惑する。しかし、実はケンドルは、カプランを狙う一味の仲間だった。

 ロジャーは、シカゴに着くと、ケンドルにはめられて、誰もいない平原の真っ只中におびき出される。すると、農薬を散布していた飛行機が突然ロジャーめがけて何度も突進してきた。結局、飛行機はタンクローリーに衝突して炎上する。

 実は、カプランという人物はCIAによって作り上げられた架空のスパイであった。CIAはバンダムという人物の犯罪組織の全容を解明しようとしていたのだった。そして、CIAによる本物のスパイは、実はケンドルだったのだ。そうした真実を、ロジャーは、CIAの教授から聞かされる。

 バンダムは、ラシュモア山の近くに所有する山荘から、飛行機で飛び立とうとしていたが、CIAは、犯罪組織の全容を解明するために、ケンドルもバンダムに同行させようとしていた。ケンドルは、空砲の銃をロジャーに向けて撃ち、ロジャーは撃たれて倒れたふりをすることで、バンダムからの信用を保とうとしたが、その後、ケンドルの撃った銃が空砲であったことがバンダムに知れてしまい、ケンドルはスパイであることが悟られてしまい、バンダムはケンドルを飛行機の上空から突き落とそうと考える。

 ロジャーは、バンダムの山荘に忍び込み、ケンドルがバンダムと一緒に飛行機に乗り込む前にケンドルを救出する。そして、追いかけてくるバンダムの一味らとともに、ラシュモア山で格闘が緊迫した格闘が繰り広げられる。ケンドルは崖から転落しそうになり、ロジャーは必死にケンドルの手を握っている。どうなるかとハラハラしていると、エンディングのシーンに・・・。

 一般に、スパイを題材にする作品というのは、スパイの揺れ動く心理をどう描くかで、その作品の正否が決まるような気がします。スパイというのは、自分の所属する組織の原理に従って行動するわけですが、送り込まれた先の組織で行動するうちに、次第にその組織に愛着が湧いてしまったり、あるいは、色濃い仕掛けのスパイであれば、当然男女間の恋愛感情が生まれてしまったりするので、その間で揺れ動くスパイの心理が映画の大きな柱となることが多いわけです。だからスパイ物の作品は複雑化してしまう傾向があるともいえます。

 この作品でも、ケンドルの置かれた立場は大変曖昧で、微妙なものです。もともと、ケンドルはバンダムの愛人であったのを、CIAがバンダムへのスパイとして利用したという設定です。そして、ロジャーとの関係において、ケンドルは最初はロジャーを助けてロジャーに惚れた女だと思ったら、実はロジャーの後を追う集団の一味だということになり、さらに実はCIAの仲間であったということを知り、2人の関係は最後まで揺れ動いていきます。

 このケンドルの心理の揺れ動きというのが、この作品の大きなポイントであり、それが、迫力満点のアクション・シーンと併せて、大変スリリングな形で描かれているように思います。

 先日御紹介したグレアム・グリーンの『ヒューマン・ファクター』も、二重スパイがテーマになっている作品で、主人公の置かれた状況と心理の揺れ動きが作品の大きなテーマとなっており、それが作品の面白さを作り上げているわけで、それとも共通する面があります。

 本作品では、ヒッチコックの持ち味であるカメラワークも、もちろん十分すぎるほど堪能できます。

 ヒッチコックの持ち味が遺憾なく発揮されており、間違いなく楽しめる作品です。