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タイム誌が2005年に選んだ100本の映画の中にも入っており、しかも50年代映画の最高傑作に選ばれているようです。TIME ALL-TIME 100MOVIES
オープニングは、主人公の胃のレントゲン写真のアップという強烈なシーンで始まります。志村喬演じる主人公渡邊は、長年市役所に無欠勤で勤める男であったが、ある日、病院で自分の余命が少ないことを悟る。そして、家に帰ると、男手1つで育てた息子の夫婦が、自分の退職金で家を建てようと話をしているところを聞いてしまう。こうしてどん底に沈んだ気持ちで渡邊は町を彷徨うが、ある居酒屋で小説家と出会って意気投合する。渡邊はこの小説家に連れられて、夜の町に繰り出し、パチンコやバー、ナイトクラブをはしごする。あるダンスホールで渡邊は「い〜のちぃ〜みじ〜かし〜♪」の「ゴンドラの唄」をリクエストするが、思い詰めたように1点をじっとみつめて涙を浮かべながら低い声で歌う渡邊の姿に、ダンスホールが凍り付いてしまうシーンは、ラストのブランコに乗って歌うシーンとともに、あまりにも有名なシーンです(邦画史上最高の名シーンの1つでしょう。)。
この映画のポイントの1つは、後半、渡邊の通夜の場面に時点が飛び、渡邊の奮闘を回想するという構成を取っているところにあります。佐藤忠男氏の書かれた『黒澤明解題』(岩波同時代ライブラリーの標題。岩波現代文庫からは『黒沢明作品解題』との標題で出版されているようです。)によれば、脚本を書いた黒澤と橋本忍は、後半の脚本の書き方に苦慮し、先に進めなくなります。なぜなら、単に渡邊の努力を描くだけなら、ありきたりの美談として終わってしまいかねないからです。そこで考えついたのが、後半、渡邊が公園の工事に取りかかるとすぐに、彼の死語のお通夜の場面に飛躍し、そこで、渡邊の上司、部下らが渡邊の行動を追想するという形式でした。
「これによって、これは単純な美談ではなくなり、渡辺勘治の行動を理解できない人々がそれを理解しようと試みるディスカッション・ドラマになった。あるいはいったん理解に達したと思ってもその理解は一時的な底の浅いものでしかなかったというような、多様な人物たちの多様の視点がからみあう利害と葛藤をも重層的に表現したドラマになり得たのである。」(佐藤忠男『黒澤明解題』p150−151)
- 作者: 佐藤忠男
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この映画は、「絶望」を死に至るまでつきまとう病として捉え、執拗にこれを分析したキルケゴールを思い出させます。
- 作者: キェルケゴール,斎藤信治
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この映画の主人公も、胃ガンであることを悟った「絶望」の中から、初めて自己を見出しました。「絶望」を認識するまではミイラのような人生を送っていたのに対し、「絶望」を認識して初めて生き生きとし始めたわけです。
先に取り上げた『黒澤明解題』によれば、黒澤は次のように書いているそうです。
「僕は時々ふっと自分が死ぬ場合のことを考える。すると、これではとても死にきれないと思って、居ても立ってもいられなくなる。もっと生きているうちにしなければならないことが沢山ある。僕はまだ少ししか生きていない。こんな気がして胸が痛くなる。」(前掲書p150)
この映画の主人公は、黒澤自身の「絶望」と自己回復という内面の過程を表現したものだといえそうです。