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「花嫁の父」★★★★☆

花嫁の父 [DVD] FRT-016

花嫁の父 [DVD] FRT-016

 娘の結婚が決まった後の父親の苦悩をドキュメンタリー・タッチで描いたコメディ映画です。ヴィンセント・ミネリ監督のセンスと父親役を演じるスペンサー・トレイシーの好演が光る作品です。

 弁護士のスタンリー・バンクス(スペンサー・トレイシー)の娘ケイ(エリザベス・テイラー)は、家族との夕食の際に、結婚したいボーイフレンドがいる旨を打ち明け、スタンリーは冷静さを失ってしまう。スタンリーは娘の相手のバクリー・ダンストンと会うが、その素性を知るまでなかなか娘の結婚相手として認める気になれなかった。しかし、妻と共にバクリーの両親と会い、相手の家柄の良さを確認して安心した。

 問題は結婚式と披露宴の開催。スタンリーは極力控えめな式を望んだが、妻と娘は次々と華やかな段取りを進めていってしまう。スタンリーはついに娘に対して、思わず「駆け落ち」を勧めてしまう始末。

 式も近づいたある日、ケイは泣きながらバクリーと結婚しないと言い出す。その原因を聞いてみると、新婚旅行の行き先を巡る些細な喧嘩だと分かり、2人はすぐに仲直りしてホッとする場面も。

 狭い自宅での披露宴に誰を呼び、どうやって人を収容するかなど課題は山積し、スタンリーは式当日のことが夢に出て来てうなされる夜を過ごすが、どうにか当日までたどり着く。式が無事終わり、自宅での披露宴もてんやわんやになりながらも終了。ケイとバクリーはスタンリーと挨拶を交わす時間もないまま新婚旅行に出かけてしまう。。。

 ヴィンセント・ミネリ監督とエリザベス・テイラーとの組み合わせの作品といえば、『いそしぎ』を見たことがありますが、その独特な哀愁的な雰囲気と結末とは打って変わって、本作品は心の底から楽しめ笑える作品です。

 こういう作品は無条件にいいですね。大変よくできた楽しめる作品でした。

「情熱のピアニズム」★★★★★

 全身の骨が折れた状態で産まれる病気で、成人してからも1メートルの身長だった天才ピアニストのミシェル・ペトルチアーニの生涯をドキュメントにした映画です。よくもここまで映像を撮りためていたと感心してしまいます。かつての愛人やペトルチアーニと同様の障害を持つ息子も登場し、コメントしているところがすごいところです。

 南仏で育ったペトルチアーニは、幼少の頃から外で遊ぶことができなかったため、ギター・ミュージシャンの父親の厳しい指導でピアノを習得し、幼少の頃から天才ピアニストとして活躍します。その後、アメリカ西海岸にわたり、本格的にジャズ・シーンで活躍するようになります。英語もあっという間にマスターしてしまいます。その後、ニューヨークにわたり、そこでも一流のミュージシャンとの共演を果たします。それから再びフランスに凱旋帰国し、36歳の生涯をNYで閉じることになります。

 ペトルチアーニは女性に好かれたようで、生涯で5人の女性と恋愛します。西海岸で酋長の娘と懇意になったり、NYでも恋人ができ、それからホテルのフロントをしていた女性との間に子供ができます(その子供もペトルチアーニと同様の障害を持って産まれてきます。)。さらに別の女性とも付き合い、結婚式も挙げますが、結局うまくいかず別れることになります。こうした女性遍歴はペトルチアーニの人間的魅力を象徴していると言えるでしょう。

 作品中、数々の演奏場面が登場します。チャールズ・ロイドとの共演、そしてウェイン・ショータージム・ホールとの共演などなど。ローマ法王の前で演奏する場面も感動的です。 骨が弱いにもかかわらず、ピアノの鍵盤を叩く力は並大抵ではなく、時には鍵盤の方が持ちこたえられずに壊れてしまうくらいです。指運びの速さも並大抵ではありません。♪She Did It Againの演奏を聴けば、ペトルチアーニの天才ぶりが分かります。 ペトルチアーニはとにかく楽観的です。健常者との違いも前向きに受け止め、違いこそが素晴らしいというペトルチアーニのメッセージが随所で伝わってきます。

 長く生きられないことを悟っていたのか、薬物を含めたあらゆることに興味を抱きます。知人のコメントの中に、ペトルチアーニは少しずつ死を導き入れながら生きていた、という趣旨の言葉がありますが、作品の中のペトルチアーニの人物像は正にこの言葉に集約されていると言えます。生き急いだという言い方もできるでしょう。

 とにかく素晴らしい人間的魅力と天才的な才能を持ったペトルチアーニの魅力が余すところなく伝わってくる作品です。

 ちなみに、ペトルチアーニのCDは2枚持っています。初期の作品と、もう一つは父親と共演した作品です。どちらも大変素晴らしい作品ですので、是非聴いてみてください。

Michel Petrucciani

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