GAFAとは、言わずと知れたGoogle, Apple, facebook, amazonの4大ビッグ企業ですが、本書はこれらの企業の内実を解き明かそうとするものです。
1.アマゾン
全米の52%にはアマゾン・プライムがあるほどですが、著者はアマゾンの隆盛の要因は、私たちの本能に訴える力と、シンプルで明確なストーリーだとします。
アマゾンが訴えかける私たちの本能とは、
「より多くのものをできるだけ楽に集めようとする我々の狩猟採集本能」
です。
そして、シンプルで明確なストーリーとは、
「ストーリー:世界最大の店
戦略:低コスト、より多くの選択肢、より迅速は配送。こうした消費者利益への巨額投資」
です。
興味深いのは、アマゾンが運輸業へ参入しているという指摘です。アマゾンは集めた年会費を使って物流インフラを構築しています。近いうちにアマゾンはアメリカと欧州における最大の輸送業者となると著者は予測します。
そして、著者は、アマゾンの音声テクノロジーのアレクサが、小売りとブランドの両方の地盤を揺るがす可能性があるとします。アレクサは自社のプライベート・ブランドであるアマゾンベーシックなものを勧めます。これにより、アマゾンは他のブランド品よりも、自社の製品の販売を推し進めようとしているわけです。
「ブランドを殺すものには名前がある。それはアレクサだ。」
と著者は述べています。
2.アップル
アップルのスマホ市場でのシェアは、台数ベースで14.5%に過ぎないにもかかわらず、全世界のスマホの利益の79%を独占しているとのこと。つまり、アップルは高級品業界をターゲットとして、高級ブランドによって利益を上げているわけです。
「テクノロジー企業から高級ブランドへ転換するというジョブズの決定は、ビジネス史上、とりわけ重要なーそして価値を創造したー見識だった。」
著者は、高級ブランドの5条件として、
- アイコン的な創業者
- 職人気質
- 垂直統合
- 世界展開
- 高価格
を挙げています。
アップルが依然としてアップルストアというリアルな店舗を重視しているのは、やや違和感がありますが、それは、アップルがこうした高級ブランドを維持するために不可欠なわけです。
と著者は述べています。
3.フェイスブック
今、地球上の6人に1人が毎日フェイスブックを見ているのだそうです。
著者は、
「規模とターゲティング能力を併せ持っているメディア企業は、フェイスブックだけだ。」
と指摘します。つまり、18億6千万人のユーザーが自分のページを作り、そこに個人的なコンテンツが収められていて、広告主が個人をターゲットにしたければ、フェイスブックがその人の行動に関連するデータを集めてくれるわけです。
著者は、フェイスブックは着実に昔のメディアを去勢していくだろうと述べています。例えば、ニューヨークタイムズは、フェイスブックからニューヨークタイムズのサイトに移動せずに記事を丸ごと読める仕組みとなっていますが、それによってニューヨークタイムズは広告収入を得られるものの、フェイスブックは、どのメディアのコンテンツを見せるかをコントロールできるという意味で、主導権を握っていることになります。
4.グーグル
著者はグーグルを現代の神と位置付けています。それは、人々のグーグルに対する絶大な信頼を指すものです。グーグルは私たちの極めてナイーブな質問を大量に知っているわけです。そして、グーグルの広告に影響を受けない検索(オーガニック検索)に対して、人々は絶大な信頼を置いています。そして、ホームページのシンプルなデザインは神聖さを象徴しています。広告主はどんなにお金を積んでも、グーグルのホームページの一角を買うことはできないわけです。
著者は、ニューヨークタイムズがグーグルに記事の掲載を許可していることに、強く異議を唱えています。
「『ニューヨーク・タイムズ』は近代ビジネス史上、最大級の間違いを犯したのだ。ぜいたく品のブランドを下水道に流すことで広めて、下水道の所有者には自分の店よりも安い値をつけることを許容したのだ。」
著者は、これらの四騎士が共有する「覇権の8遺伝子」を挙げています。
- 商品の差別化
- ビジョンへの投資
- 世界展開
- 好感度
- 垂直統合
- AI
- キャリアの箔づけになる
- 地の利
次のGAFA候補の企業にこの基準に照らした分析は興味深いものです。
アリババは、米国での商業拠点の確立が課題であることに加え、ビジョンへの投資が不足し、投資家向けのストーリーテリングに苦労していると著者は指摘します。好感度にも課題があります。
テスラは、ビジョンの魅力は優れているものの、まだ世界展開をしておらず、個人行動のデータを有していない点が課題と指摘されています。
ウーバーは、ビジョンは優れており、相当なビッグデータを活用できるスキルがあるものの、垂直統合されていない点がネックです。ウーバーに勤めていたことがキャリアの箔づけになるとも思われていません。そして、CEOのキャラクターにより好感度が悪いことが最大のネックとなっています。
エアビーアンドビーは、世界展開には成功しているものの、垂直統合がなされていないのが弱みだと指摘します。
そして、本書の最後に、著者は四騎士の目的を率直に指摘します。
「彼らの目指すもの、それはつまるところ金儲けなのだ。」
「私たちはあれだけの大企業ならたくさんの雇用を生み出していると思ってしまうが、実は違う。そこにあるのは報酬が高い仕事が少しだけで、それにあぶれた人が残りの物をめぐって争っている。この調子だとアメリカは300万人の領主と3億人の農奴の国となる。」
これが本書を通じてもっとも著者が伝えたかったことのように思います。
本書は、以上のような感じで、GAFAという存在の本質を鋭く抉り出している良書だと思います。著者は基本的には、GAFAに対して懐疑的な考えを抱いているように思いますが、かといって、GAFAの否定的な面ばかりを強調するのではなく、その成功の要因や課題を冷静かつ深く分析しています。
GAFAを見てつくづく感じるのは、日本のいわゆる大企業との差異です。GAFAの多くは比較的新しい顔ぶれであり、数年前まではベンチャー企業の一つに過ぎなかったのに対し、日本の大企業の顔ぶれは、何十年前からほとんど変わっていません。大きな組織が長年維持されるということは、それだけ組織は疲弊し、腐敗することにつながり、そこからイノベーションが起こるわけがありません。アメリカや近年の中国のイノベーションの状況を見ればわかるように、イノベーションの創出を支えるのは、ベンチャー企業なのだと思います。
GAFAが世界市場を席巻する状況を見るにつけ、日本の今の社会から果たしてGAFAのような企業が生まれる可能性が果たしてあるのだろうか、とつくづく考えてしまいます。
そういう意味で、大変考えさせられる本でした。