映画、書評、ジャズなど

「さよならをもう一度」★★★★

 

さよならをもう一度 [DVD]

さよならをもう一度 [DVD]

 

妙齢の婦人役をイングリッド・バーグマンが演じている1961年の作品です。

 

インテリアを手掛けるポーラ(イングリッド・バーグマン)は、トラック販売を手掛けているロジェ(イヴ・モンタン)と長年付き合っていたが、ロジェはポーラとの会食の約束を平気ですっぽかす。

そんなロジェの紹介で、ポーラはある富豪婦人の家の装飾を手掛ける仕事を得る。その婦人の息子フィリップは、ポーラよりはるかに年下だったが、ポーラに惚れ込んでしまう。

ロジェが他の女と泊りがけででかけたのを知り、ポーラはついにフィリップと同居するようになる。しかし、フィリップは、益々ぐうたらな生活を送るようになる。

しかし、ロジェとポーラは再び関係を取り戻すようになり、ポーラはフィリップとの同居を解消する。

ロジェとポーラは同居を始めるのだが、ロジェは相変わらずポーラとの約束をすっぽかすのだった。。。

 

 

この作品の原作は、フランソワーズ・サガンの『ブラームスはお好き』ですが、作品中では、ブラームスの音楽が効果的に使われています。


さよならをもう一度(GOODBYE AGAIN)~マーティ・ゴールド・オーケストラ

 

この作品が公開された当時、イングリッド・バーグマンは40代半ばということになりますが、『別離』や『カサブランカ』などとはまた一味違う、益々洗練された美しさを醸し出しています。

 

ラストの何とも言えない虚無感が印象に残る作品です。

「ナイロビの蜂」★★★★☆

 

ナイロビの蜂 (字幕版)
 

ジョン・ル・カレの原作を映画化した作品です。2005年の公開当時に映画館で鑑賞しましたが、久々に観て、やはりいい作品だと思いました。

 

イギリス外交官のジャスティン(レイフ・ファインズ)はケニアに赴任している。妻のテッサ(レイチェル・ワイズ)も、アーノルドという黒人男性と共に、現地の貧困層の医療問題に取り組んでいた。

しかし、テッサとアーノルドが共に活動で向かった先で、テッサが事故死したという一報にジャスティンは接する。

テッサとアーノルドの関係は、周囲から怪しまれていた。ジャスティンも当初は、2人の関係を疑っていた。しかし、アーノルドは同性愛者であり、テッサと恋に落ちることはあり得ないことをジャスティンは知る。

さらにジャスティンは、テッサは、欧米の製薬企業が、いまだ危険性が払拭されていない医薬品の効果を確かめるために、ケニアの貧しい人々を治験の対象としていたことを突き止め、その問題を政府の高官に直訴していたことを知る。テッサは、ジャスティンに迷惑をかけないよう、ジャスティンに知らせずにこうした活動をしていたのだった。

ジャスティンは、テッサの遺志を引き継ぎ、欧米の製薬企業の横暴を暴いていく。その過程で、ジャスティンは自分の上司も、テッサの活動を妨害していたことを知る。テッサは、製薬業界と政府の利権に手を付けようとして、命を奪われたのだった。

ジャスティンは、テッサが命を落とした場所に赴いた。そして、テッサと同様に、何者かによって命を奪われる。。。

 


The Constant Gardener - Trailer

当初、ジャスティンは妻テッサの不貞を疑っていたのが、次第に、テッサへの疑惑が晴らされていき、テッサが自分を愛していたことを知り、ジャスティンは妻を疑った自分を恥じていく過程が実によく描かれています。

 

ちなみに、原題は“The Constant Gardener”です。ジャスティンは庭いじりが好きな外交官という設定ですので、こういうタイトルが付けられたのでしょう。しかし、外交官でありながら、妻のように社会問題に大した関心を持つわけでもなく、妻が命を落として、その真相を探っていく中で、ようやく庭いじりを超えて、社会問題に関心を抱くようになっていくというジャスティンの成長過程としてこの作品を見れば、非常に奥が深いタイトルのように思います。

 

この作品の魅力の一つは、レイチェル・ワイズの魅力的なキャラクターでしょう。美貌もさることながら、夫に見せる天真爛漫な姿と、その裏で社会問題に鋭く切り込む熱意を併せ持つ難しい役柄をうまく演じています。アカデミー賞では助演女優賞を受賞していますが、大いに納得です。

「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」★★★★


『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』ヘイロージャンプフィーチャレット

ミッション:インポッシブルの最新作を鑑賞してきました。

トム・クルーズのアクションは、やりすぎなくらいエスカレートしており、それだけでも見る価値はあります。ヘイロージャンプと呼ばれる飛行機からの危険なダイビングシーンなどは見ごたえがあります。

 

トム演じるイーサン・ハントは、盗まれたプルトニウムを回収するというミッションを与えられる。手掛かりが少ない中、ジョン・ラークという男とホワイト・ウィドウという女がパリで会うことを知り、イーサンらは急遽パリへ向かう。

CIAはイーサンの動向を警戒し、ウォーカーを監視役としてイーサンに同行させるが、しばしばイーサンとぶつかる。

数々の障壁を克服しながら、イーサンらは、プルトニウム爆弾の起爆を阻止する。。。

 

 

アクションシーンだけ見れば、おそらくこれまでのシリーズの中でもダントツかもしれません。パリの凱旋門でのカーチェイスノルウェーのプレーケストーレンの断崖絶壁でのヘリコプターを巡る壮絶な格闘シーンなどは、想像を絶するアクションで、トム・クルーズでなければできないアクションでしょう。

 

正直、ストーリーは無駄にややこしくなっていて、いただけません。アクションを見せるのであれば、もっとわかりやすくシンプルなストーリーにしておいた方が良かったように思います。

 

それでも、この素晴らしいアクションシーンだけでも、必見の作品と言えます。

「続 忍びの者」★★★★

 

続 忍びの者 [DVD]

続 忍びの者 [DVD]

 

 

『忍びの者』の続編です。

前作では、信長によって伊賀忍者が滅ぼされ、石川五右衛門は忍者から足を洗って、マキと幼い子供とともに穏やかに過ごしていた。しかし、そんな五右衛門らを襲撃し、五右衛門は愛する一児を無残に殺害される。

五右衛門は、信長にしぶとく抵抗を続けていた雑賀の一向一揆のもとを訪れ、信長への反撃に向けた共闘を開始。

五右衛門は、信長から冷遇されていた明智光秀をけしかける。光秀は豊臣秀吉が遠征に出ている隙を狙い、信長のいる本能寺に奇襲をかける。五右衛門は最後、信長と対峙し、残酷に信長を殺害する。

その後、秀吉は、雑賀の一向一揆に猛攻撃をかけ、一向一揆をせん滅させ、マキも命を落とす。

五右衛門は秀吉側に捕らえられ、熱湯風呂によって処刑されることに。。。

 

 

昭和に作られた時代劇だけあって、今では考えられないほどの残酷なシーンがたびたび登場します。中でも、五右衛門が信長を殺害するシーンは、手足を切り落としていく残忍な描写となっています。

忍者映画という響きから想像されるようなエンターテイメント的な要素はなく、主役の市川雷蔵のさわやかな雰囲気とは対照的な重苦しい空気が始終漂う映画ですが、逆にリアリティが感じられます。おそらく、戦国時代のいくさはこんなむごたらしい感じだったのでしょう。

 

「忍びの者」★★★★

 

忍びの者 [DVD]

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1962年の山本薩夫監督の作品です。主役は市川雷蔵シリーズものですが、その最初の作品です。忍者映画ではありますが、戦国時代を忍者として生きる人々の集落を舞台にリアリティがある作品です。

 

忍者の石川五右衛門は、百地三太夫を頭領とする忍者の集団に属しており、三太夫の寵愛を受けていた。三太夫の悲願は、信長の暗殺だった。

同じ忍者の集団の藤林長門守も信長の暗殺を狙っており、両者は競合関係にあった。

五右衛門は三太夫の若い妻と不倫関係となり、それを女中らに目撃されていた。三太夫の妻は井戸に転落して死亡。五右衛門は自分が三太夫の妻を殺してしまったと思う。三太夫は、五右衛門が信長の暗殺に成功すれば許すとのこと。

五右衛門は信長の暗殺のために向かった堺で遊女のマキと知り合い、結婚を申し込む。

五右衛門は、三太夫の妻の死が三太夫の殺害によるものであることを知る。

三太夫はマキをも人質にとり、五右衛門に信長の暗殺をけしかける。五右衛門はあと一歩のところで信長を暗殺するところだったが失敗。信長は忍者の集落を逆に攻撃する。

三太夫は殺された。五右衛門は殺害された三太夫の遺体を見て、三太夫がもう一つの忍者集団藤林長門守の頭領も兼ねていたことを知ったのだった。。。

 

 

最後のどんでん返しにはあっけにとられました。ラストのシーンでマキのもとに笑顔で走っていく五右衛門の姿は、とても後味がよく清々しかったです。

五右衛門のキャラクターは決して魅力的というわけではありませんが、最後に五右衛門が卑劣な三太夫に勝利するストーリー展開は痛快で、とても楽しくさせられる作品でした。

「インテリア」★★★★

 

ウディ・アレン監督の1978年の作品です。

コメディ作品が売りのウディ・アレン監督ですが、この作品には一切コメディの要素はなく、初老の夫婦の離婚をきっかけに家族が崩壊していく過程をひたすらシリアスに描いた作品となっています。ウディ・アレン監督も一切出演していません。

 

実業家の夫とインテリア・デザイナーの妻イブは、3人の娘を育ててきたが、子供たちがそれぞれ独立した時期、夫は妻に別居を提案する。イブは自ら家を出ていく。

イブはメンタルの病を患う。3人の娘たちは母親のイブの扱いを巡って動揺する。

しかも、追い打ちをかけるように、夫は新しい恋人と結婚したいと言い出す。夫と新しい妻との結婚式が執り行われ、3人の娘たちも参加する。

その後、これまで住んでいた家で、新しい夫婦と3人の娘たちはパーティーをしていた。そこに、イブが窓越しに現れる。イブはそのまま海岸に向かって行き、海の中へと消えていった。。。

 

 

以下が、ラストのシーンです。


Interiors (Woody Allen, 1978) - Final - Ending [sub. español]

 

この作品は、ウディ・アレン監督のベルイマン監督に対するオマージュのようです。確かに、陰鬱な雰囲気はベルイマン監督の作品以上かもしれません。

 

ただ、やっぱりウディ・アレン監督は、こういうシリアスな作品には向いていないように思います。ラストの場面もそうですが、イブにとっては、何ら希望が見いだせないまま、死に向かって行ってしまうわけです。このイブの死が、何か希望につながっているのであればよいのですが、この作品では、そういう感じはしません。

 

陽気な作品ばかり制作してきたウディ・アレン監督がこんな作品を作るのは、余程の覚悟があったのかもしれませんが、正直に言えば、私はウディ・アレン監督には、もっと陽気なパンチの効いたコメディ作品を作ってもらいたいと思います。

 

「暗殺のオペラ」★★★★☆

 

暗殺のオペラ [VHS]

暗殺のオペラ [VHS]

 

ベルナルド・ベルトルッチ監督の1970年の作品です。

東京都写真美術館でベルトリッチ監督の作品の上映が特集されており、鑑賞してきました。

ボルヘスの伝奇集の中の『裏切り者と英雄のテーマ』から着想を得て作られた作品というだけあって、キツネにつままれれたような気持ちにさせられます。

 

イタリアの田舎町タラの駅にアトスという若い男が降りた。彼の父親は反ファシズムの英雄だった。かつてムッソリーニの暗殺の計画がばれて、劇場で何者かに射殺されたのだった。アトスは、父親の元愛人のドライファに呼び出されたのだった。

アトスはドライファから、かつての父親の同士であった3人の男に会うように言われる。また、彼らに敵意を抱いていた地主にも会う。その地主は父の殺害を否定する。

アトスは、何者かがアトスを町から追い出そうとしている気配を感じる。そうした中、アトスは、実は父親の同士であった3人こそが父親の殺害犯であることを知る。実は、ムッソリーニの暗殺計画を漏えいしたのが、アトスの父親だった。

そのことを咎められた父親は、3人の同士に対して、自分を殺害して、反ファシズムの英雄とすることを求めたのだった。。。


映画「暗殺のオペラ デジタル・リマスター版」 予告篇

 

ラストのシーンは、アトスがタラの街を去ろうとして駅に滞在するシーンなのですが、実はそこに町がなかったかのような示唆を与える不思議なエンディングとなっています。

オペラの曲が大変効果的に使われていて、非日常的で幻想的な作品の雰囲気を効果的に醸し出しています。

ファシズムの英雄が実は全く逆であったというエンディングは圧巻としか言いようがありません。作品を通して、街の人たちのアトスに対する態度がどことなくぎこちないわけですが、その意味が最後に明らかになっていくという展開は、極めて巧妙です。

アトスの父親の元愛人を演じているアリダ・ヴァリは、かつて『第三の男』にも出演されていますが、年を重ねたアリダ・ヴァリもとても魅力的で、この作品で欠かせない存在となっています。

 

それにしても、ベルトリッチ監督がこの作品を29歳の時に制作したというのは、驚愕です。