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原寮「それまでの明日」

 

それまでの明日

それまでの明日

 

直木賞作家の著者ですが、14年ぶりの作品というだけあって、渾身の作品となっています。

主人公は探偵業を営む沢崎。あるとき、消費者金融の支店長を務める望月という男が沢崎の事務所を訪れ、赤坂の料亭の女将について調査を依頼するのだが、その女将は既に亡くなっていた。

依頼人の望月の支店が強盗事件に巻き込まれ、その場に沢崎も居合わせて事件に巻き込まれる。望月は支店に戻らずに行方不明になる。2名の強盗のうちの1名は逃亡した。支店の金庫からは本来あるはずのない大金が保管されていた。強盗事件の現場には若者の就職を斡旋する会社を経営する海津という若者も居合わせた。

沢崎が望月の住居を訪れると、浴槽に水死体があった。沢崎の下には暴力団が訪れ、支店の金庫の様子をしきりに尋ねる。

結局、望月は自ら出頭し、監禁されていたと主張する。そして、赤坂の女将の調査を沢崎に依頼した人物は望月本人ではなかったことも明らかになる。。。

 

 

渦中の望月が出頭したことで、事件の全容が明らかになるかと思いきや、必ずしも全容が解明されたわけではありません。望月がなぜ支店の金庫に大金を保管していたのかについては、最後まで明らかにはなっていません。

一方、話の焦点は、強盗事件よりもむしろ、誰が望月に成り代わって沢崎に女将の調査を依頼したのかに移っていきます。かつて若かりし頃に女将と関係を持ったままそれっきりになっていた人物が望月の名を騙って沢崎に調査を申し込んだことが明らかになってくるわけですが、それは強盗事件とは離れた話です。

 

そんなわけで、強盗事件の全容に関しては最後までスッキリしない感じは残る面もあるのですが、他方で、消費者金融の強盗事件と赤坂の女将を巡る淡い過去とのつながりが物語の最後でつながってくるところは、巧みな展開といった感じです。