フリーエージェント社会の到来 新装版---組織に雇われない新しい働き方
- 作者: ダニエル・ピンク,序文:玄田有史,池村千秋
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2014/08/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書の内容を端的に言うと、これまで何十年もの間、アメリカ社会において主流だった「オーガニゼーション・マン」的な働き方から、フリーエージェント的な働き方、すなわちへの大きな転換が見られるということです。
フリーエージェントについて、序文を書かれている玄田氏は次のように定義しています。
「「インターネットを使って、自宅でひとりで働き、組織の庇護を受けることなく自分の知恵だけを頼りに、独立していると同時に社会とつながっているビジネスを築き上げた」人々」
ここでイメージされているのは、個人の組織に対する優位性が増していく社会です。組織に対する忠誠心は薄れ、代わって、顧客や同僚に対するヨコの忠誠心に転換していきます。
仕事と仕事外の時間の関係も曖昧化していきます。工業経済においては何時間働いたかが重要ですが、フリーエージェントはむしろ仕事とプライベートの境界線が曖昧になる代わりに、自分でスケジュールを管理することができます。
ピンク氏によれば、産業革命前の社会は、フリーエージェント社会に近かったとのこと。つまり、家庭と仕事が相互に排他的な関係にあるわけではなく、仕事と家庭はブレンドされていたわけです。さらに遡れば、狩猟時代の人間にも仕事と家庭の峻別はなかったわけです。
では、フリーエージェントが孤独へと向かっていくのといえば、そうではなく、フリーエージェントたちは職場のコミュニティに代わる新しい結びつきを形成しているとピンク氏は指摘しています。ここで興味深いのは、ピンク氏が「弱い絆」の重要性を強調している点です。「弱い絆」については、リチャード・フロリダ氏もその重要性を強調しています。
http://d.hatena.ne.jp/loisil-space/20080411
この概念はもともとマーク・グラノヴェターが1974年に指摘したものです。グラノヴェターは、新しい仕事を見つける際にそのきっかけを与えた多くは親友ではなく、ときどき会うだけの知り合いだったというデータを踏まえ、これを「弱い絆の力」という考え方で説明しました。
ピンク氏が「コーヒーショップ」などの「サードプレイス」の重要性を指摘しているのも、フロリダ氏と共通しています。「サードプレイス」という概念はレイ・オルデンバーグが地域の活性化に必要な社交の場として用いた言葉で、スターバックス・コーヒーがこの考え方と採り入れていますが、要するに家でも職場でもない第三の場所ということです。ピンク氏はこうした「サードプレイス」はフリーエージェントのインフストラクチャーの一つとして捉えています。
フリーエージェント社会では高齢者の在り方も変わってくるとピンク氏は指摘します。彼は
「eリタイヤ」
という言葉を用いていますが、高齢者もインターネットを使いこなすことでフリーエージェントとして働く需要が高まることを指摘します。
本書の主な指摘は大体以上のような感じですが、近年、リンダ・グラットン氏らが指摘している問題意識と通ずるところがあります。
日本のサラリーマンが典型であるように、工業社会における個人は組織に縛られすぎてきたことは否めません。ピンク氏も指摘するように、工業社会以前は、人々はこれほど組織に縛られておらず、さらにいえば、農耕社会が成立する以前の狩猟社会はもっと個々人が自由であったわけで、ピンク氏の主張は、人々の生き方が元来の姿に戻ってきつつあると言っている面もあるわけです。
他方、フリーエージェント社会がイメージしている個人は、自律的で主体的な個です。誰しもがこうしたフリーエージェントになれるわけではありません。組織は人々の安心感の拠り所となってきた面もあるわけです。もちろんピンク氏もすべての人々がフリーエージェントになるべきだと言っているわけではなく、規模の経済の恩恵を受ける巨大企業とフリーエージェントに両極化していく中で、中間の規模の企業が消滅していくというイメージを持っているようです。
要は、社会がフリーエージェント型の生き方と組織に依存する生き方へと両極化しているというのが真実なのかもしれません。インターネットなどを活用することにより、組織に必ずしも依存しなくても、能力のある人は十分仕事が成り立つようになってきていますので、そうした資質を持った人々にとっては、自分の生活をトータルに管理しながら、自由なライフスタイルを選択する方がベターんなわけです。そういう人々にとっては、組織で仕事をする場合と違って、仕事と余暇という厳格な峻別は必要なくなり、仕事と趣味の一体化も可能になってくるわけです。
いずれにせよ、ピンク氏の描くフリーエージェント的な生き方が多くの人々にとって理想の生き方であることは事実であり、そうした生き方がより実現しやすくなる方向に向かっているという面はあるのだと思います。