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映画、書評、ジャズなど

クリス・アンダーソン「MAKERS 21世紀の産業革命が始まる」

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

 製造業の未来を鮮やかに描いた本です。簡単に言えば、これまでのものづくりは、莫大な資本によって製造手段を持つことができる大企業と熟練工によって独占されていたのが、オープンソースと3Dプリンターによって、装置を持たない一般の人びとでもものづくりができるようになっているのだ、というのが本書の主旨です。つまり、誰もが<メイカーズ>になれるというわけです。

 その背景としては、ものづくりがデジタルになったということが挙げられます。個人がデスクトップや工房でデザインし、それがオンラインでシェアされるわけです。オンライン上でシェアされたデザインはコミュニティで共有され、多くの人びとの叡智によって改良が加えられます。特許の保護を受けるよりも、イノベーションをシェアすることで、多くの人びとに手助けしてもらうことが選ばれるようになります。かつてサン・マイクロシステムズの共同創業者であるビル・ジョイが、

「いちばん優秀な奴らはたいていよそにいる」

と言ったそうですが、オープンソースによって、企業外の優秀な人びととつながることができるようになるのです。


 そして、そのデザインに基づいて生産してくれる設備は、ネットで探すことができます。製造手段についての知識がなくても、3Dプリンターやレーザーカッターが自動的にやってくれます。しかも、規模がそれほど大きくなくても製造することができるのです。

 従来、製造業に参入するためには、それなりの設備投資が必要となったわけですが、今では、小さな企業にもサプライチェーンが開放されたため、CADデータさえあれば、世界中のサプライチェーンを利用して、それを形にすることができるのです。

 つまり、一般の人びとが<ビット>を作り出し、委託された工場が<アトム>を製造するというわけです。

 アメリカではオバマ政権がこの動きに注目し、4年間で1000カ所の学校に3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を完備した「工作室」を開くプログラムを立ちあげたとのこと。

 こうした<メイカーズ>のムーブメントは、クラウドによって資金を調達する「クラウドファンディング」も可能にします。ネットを使ってアイデアをシェアすることで、それを欲しいと思う人がそのアイデアに投資することで、製造に係る資金に充てることができるのです。アメリカではこの「クラウドファンディング」が法律にも採り入れられているとのこと。

 キックスターターというサイトが正にそれです。
↓↓↓
http://www.kickstarter.com/

 さらに、製品開発もネットのコミュニティの手助けを借りられるのが、クァーキーというサイトです。
↓↓↓
http://www.quirky.com/

 今や、こうしたものづくりをネットコミュニティ手助けするようなサイトが数多く存在するようです。

 こうして本書を読むと、今、アメリカを発信源として、ものづくりの在り方が大きく変わりつつあることに驚かざるを得ません。本書の著者によるインタビュー記事が11月14日の日本経済新聞に掲載されています。彼は次のように述べています。

「インターネットにつながった3D(3次元)プリンターやレーザーカッターといった卓上サイズのデジタル工作機械を使って、これまで大企業にしかできなかった『ものづくり』が、一般の人びとにもできるようになった。装置がなくても製造を請け負う工作スペースにネットで設計図を送れば、自分のデザインを形にしてくれる。」

「彼らはネット上でコミュニティーをつくり、アイデアを共有する。みんながアイデアを出し合ってどんどん改良していく。ネットで公開したアイデアに賛同した人たちが開発費用を出資するクラウドファンディングという仕組みもある。こうした動きを『メイカームーブメント(製造業革命)』と呼んでいる。」

 著者の主張が大変簡潔に言い表されています。

 中小企業の中には自社で製造設備を持たないで設計のみを行うファブレスの形をとるところが増えています。米アップル社も自社で製造設備を持たずに台湾や中国のEMSに委託製造させています。こうした形態こそが正に<メイカーズ>のモデルといえるでしょう。

 一時期、IT起業ブームが起こりましたが、そうしたITとマニュファクチュアを連動させる動きこそが、この<メイカームーブメント>です。IT上のバーチャルな世界とリアルな世界がようやくつながったと言うことができるでしょう。

 そして、著者が繰り返すように、アイデアさえあれば誰しもが製造業に参画できることで、もしかすると新たな「ものづくり起業ブーム」が生まれる可能性すらあります。初期投資にかかる費用が小さくなれば、大量生産して初期投資を回収するといった必要もないわけで、消費者のニーズに対応した少量高付加価値生産でやっていく道も開けてきます。

 そう考えると、この3Dプリンターやレーザーカッターが低コストでもっともっと広まっていけば、世界の産業の風景はガラッと変わってくるかもしれません。技術的知識がない私でも何かできるのではないかとわくわくしてしまいます。

 本書は今後のものづくりの未来を展望する上で必読でしょう。少なくとも11月14日の日本経済新聞の記事を読まれることをお勧めします。