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フリーマントル「消されかけた男」

消されかけた男 (新潮文庫)

消されかけた男 (新潮文庫)

 冷戦を題材とするスパイ物の最高傑作の一つだと思います。最後のどんでん返しはスカッとした爽快感をもたらしてくれます。

 英国情報部員のチャーリー・マフィンは、ソ連KGBの大物ベレンコフを逮捕して大きな成果をあげたものの、新しい部長と次長の下で組織の中では干されかけていた。しかも、彼らはチャーリーを罠にはめて危険な目に合わせた。

 そんなとき、ソ連KGBの大物のカレーニンが亡命を求めているとの情報がもたらされた。カレーニンの亡命を実現させるべくチャーリーはプロジェクトに呼び戻された。2人の同僚がカレーニンとの接触を試みたが、1人は殺害され、1人は捕われの身となった。

 チャーリーは巧妙にカレーニンに接触し、カレーニンの亡命の段取りを進める。また、米CIAも亡命計画を知るところとなり、英国に計画の共同遂行を求めてくる。

 カレーニンの亡命はチェコからオーストリアに国境越えをするというものだった。米英両国の情報機関による綿密な計画が練られた。チャーリーは計画立案の中心的役割を担った。

 チャーリーはオーストリアの国境を超えてチェコに入り、カレーニンに洗浄された現金を手渡し、オーストリアに連れてきた。計画は万事順調に進んだ。米英情報機関のトップもオーストリア入りし、ある邸宅でカレーニンと面会する。

 しかし、すでにそこはソ連の情報部員の支配下にあり、米英情報機関のトップはソ連の囚われの身になっていた。カレーニンはベレンコフの交換要員として2人をソ連に連れ帰るつもりであることを告げる。

 実はチャーリーはカレーニンと謀っていたのだった。チャーリーはカレーニンに渡す予定の多額の資金を手にして、妻と2人で悠々自適の生活の一歩を踏み出したのだった。。。


 最後のどんでん返しは痛快であり見事です。

 情報機関の一員であるチャーリーは、長年組織に忠誠を誓ってきたものの、組織は彼をあっさり裏切ったため、チャーリーは組織や祖国を裏切り、ソ連に寝返ったのです。

 この物語は、人と組織との関係、さらには人と国家との関係を問う重要なテーマを含んでいます。多くの人々は組織の中で生き、国家の枠組みの中で生きているわけですが、自分のアイデンティティとも言うべき組織や国家から裏切られたとき、人はどう行動すべきか?という深遠なテーマを投げかけてくれます。

 案外、人のアイデンティティの根拠というのは薄弱なのかもしれません。